本年度は、福祉国家の再編が戦後の経済社会体制の中でどのように評価できるか検討し、特にイギリスにおける市場原理・競争システムの公共サービス・公共部門への導入がどのように精緻な理論として形成・受容されていったのかについて引き続き議論した。 研究を通して明らかにされつつあることは、1980年代の経済事情とそれに伴う福祉反動・福祉ショーヴィニズムの高まりが今日のグローバリズム・福祉国家の再編となったが、2010年代の「大きな社会」構想に見られるように、公共部門や民間部門という公私の二分法ではなく、その中間組織ともいうべき非営利組織を利用し、また持続可能性を高めるために一定の事業として運営することが方法として確立されてきたことである。しかしながら、政府・公共部門の専門家への信頼に基づき提供されてきた従来からの公共サービスとは異なり、ユニバーサルに提供されるべきそれとは異なる地域やコミュニティ、あるいは国民のニーズに関心が寄せられるようになってきたことを反映したものでもあった。市民や社会のコンセンサスを得られているとは言い難い面もあり、特に緊縮財政に直面したときに福祉の切り捨てと批判を招くことになっている。 このような政策の変化は、福祉国家をめぐる従来からの議論、すなわち市場や競争の持つ効率性への議論を超えて、いかにして多様化し、個別化するニーズを、限られた財源の中で実現するかという関心からの理論の形成にも支えられていたことは見逃すことはできない。すなわち、1990年代に現実の変化を受けて形成された議論においては、市場や競争を前提とし、いかにして制度を機能させるかということが議論の中心になっている。
|