研究課題/領域番号 |
16K13368
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
玄田 有史 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90245366)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 雇用契約期間 / 非正規雇用 / 雇用形態 |
研究実績の概要 |
本研究は、増大する不安定雇用層の実態解明と改善策の提案に向け、一般的な「正規・非正規」の呼称区分に代わり、客観的な「雇用契約期間」を基軸とした新たな分析フレームワークを構築することを目的とするものである。有期労働契約や派遣労働に関する法改正など、労働政策は雇用期間に着目した展開がなされているのが実際であり、政策提案および政策評価には、契約された雇用期間ならびに実際の雇用期間ごとの労働状況の把握が欠かせない。その上で有期雇用から無期雇用へのキャリア転換の促進、短期雇用の更新を繰り返す不安定雇用への支援などへの貢献を目指す。 このような目的のもと、本年度は、雇用契約期間の不明が労働者に及ぼす影響と不明に至る背景を実証分析を通じて重点的に考察した。労働基準法は雇用契約期間の書面明示を使用者に義務付けている。だが実際は雇用契約期間が「わからない」雇用者は多く、正社員以外では約2割が不明である。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」(2016年)からは、正社員以外の学卒雇用者のうち、期間不明は賃金、知識・技術の習得機会、仕事満足度などで劣ることが明らかとなった。さらに女性、未婚、若年、低学歴層、中学時の成績下位層で、期間不明になりやすい傾向もみられた。 加えて小規模企業や、社会的認知の低い「その他」業種でも、期間不明は頻繁に生じていた。一方、職場に労働者の利益を代表し企業と交渉する組織がある他、専門的な知識を有する仲介者を通じて入職した場合、期間不明は回避されやすい。安定的な就業機会の拡大と正社員以外の待遇改善には期間不明を解消する諸方策の推進が求められる。 さらに本年度は、総務省統計局「就業構造基本調査」の個票データに関する二次分析利用を申請し、データを入手した。それによって2017年度以降も、さらに研究を進展させることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は『日本労働研究雑誌』に学術論文「雇用契約期間不明に関する考察」を投稿し、査読を経て採択されるなど、当初の計画以上に順調に研究は進展している。さらに総務省統計局「就業構造基本調査」の個票データを用いた、雇用契約期間の規定要因の分析の他、賃金、訓練・自己啓発、転職希望などの就業状況に対する雇用契約期間に関する分析も、予定通り進行している。それらの研究成果には、一般的な関心も高く、当該年度において書籍として刊行されることが出版社との間で合意されている。さらに研究成果の一部は、川口大司編『日本の労働市場』(有斐閣)における雇用契約と雇用区分に関する考察の一章として掲載される予定になっている。 本年度の研究により、自らの雇用契約期間が「わからない」という雇用者の存在について学術論文の刊行を一つの契機に「雇用契約期間」という概念が一般に普及することは、、学術的な斬新性を持つのみならず、曖昧な雇用契約によって不安定な状況に労働者が置かれる事態を未然に防止し、日本全体の労働環境の改善に貢献するという成果につながることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究計画で述べたとおり、雇用契約期間を軸として、その規定要因と就業に及ぼす影響をとりまとめ、書籍としての刊行、ならびに学術編書への掲載を着実に進めていく。そこでは、リクルートワークス研究所「就業実態パネル調査」を用いて、雇用契約期間の移行に関する個人追跡調査を用いた分析も行っていく。 また雇用契約期間に関する日本の構造的特性を明らかにするため、期間不明を含む、雇用契約期間に関する同様な統計データを有する国々との間での比較分析も新たに行っていく。その上で、比較実証分析の成果を、海外の学術雑誌への投稿採択も目指す。 併せて、当初の研究計画で示したとおり、雇用契約期間を明確にした労働契約の普及を目指し、研究の成果を研究者以外の方々にも理解いただくべく、一般向けの書物やエッセイの執筆なども随時行っていく。それによって、正社員といいながらも実際は雇用が不安定だったり、重責にもかかわらず非正社員の呼称のために低賃金に甘んじている人々など、正規・非正規の区分による曖昧な処遇を修正し、明確な雇用契約期間に基づく労働環境整備の一助となるべく、成果を広く発信していく。
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