本研究では、増大する不安定雇用層の実態解明と改善策の提案に向け、「正規・非正規」の呼称区分に代わって、客観的かつ法律による規定も明確な「雇用契約期間」を基軸とした、不安定雇用に関する新たな分析フレームワークを構築した。有期労働契約や派遣労働に関する法改正など、不安定雇用の是正に関する労働政策は雇用期間に着目した展開がなされてきたのが実際であり、政策の提案および評価には、契約された雇用期間ならびに雇用期間ごとの労働状況の把握が欠かせない。そのために総務省統計局「就業構造基本調査」の個票データを用いた分析の他、独自に実施したアンケート調査も実施した。 雇用契約期間に着目した分析では、労働条件に恵まれない雇用者として、契約年数の短い有期契約労働者に加え、自らの雇用契約期間が「わからない」とする労働者の存在に着目した。実証分析の結果、非正規雇用労働者のなかでも契約期間が不明の雇用者は、賃金、能力開発、長期雇用の見通しなどの労働条件が統計的にも著しく劣ることが発見された。その結果、雇用条件の改善には雇用契約における労働条件の明示と確認の徹底をはかる政策の重要性が明らかになった。 最終年度においては、日本の契約期間不明の雇用者の特徴を明らかにするため、契約期間に関する日本と同様のデータを有するスペインとの比較実証分析を行った。その結果、契約期間が不明な労働者はスペインにも日本と同程度の割合で存在すること、独身、若年、女性、非進学者などが期間不明になりやすい点や期間不明ほど就業満足度が低い点などで二国間で共通することが発見された。かつスペインの研究からは移民労働者ほど期間不明になりやすく、そこからは日本の移民政策の実施に関する重要な示唆も得られた。本比較研究は、海外学術雑誌に投稿、採択された。
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