本研究は飲酒が労働生産性に与える影響を推定することを目的とした研究計画である。飲酒するかどうかは観察不能な労働生産性決定要因と相関することが予想されるため、飲酒行動には影響を与えるものの、観察不能な労働生産性決定要因とは相関しない操作変数を発見することが不可欠になる。そのような操作変数として本研究計画ではアセトアルデヒド分解酵素を持つかどうかを示す2値変数を用いた。 データは韓国におけるアルコールパッチテストの実施を含み回答者の教育水準・所得・労働時間などを聞いたサーベイ調査の結果から作成した。このデータをすでに他の研究計画において作成した日本のデータと合わせて分析を行った。 日韓両国のデータ分析の結果、アセトアルデヒド分解酵素を持つと思われる回答者は、そうでない回答者に比べて、飲酒の回数・量ともに統計的に有意に増加しているとともに時間当たり賃金も統計的に有意に増加していることが明らかになった。もっともこの結果を飲酒が時間当たり賃金に与える因果関係であると結論するためには、操作変数推定法を行う際に重要な仮定の一つである除外制約が満たされる必要がある。その点に関しては疑問を投げかける結果が得られた。 上記の結果を論文にまとめたものをすでに研究協力者が京都大学、東京大学で発表した。それらのセミナーにおけるコメントを反映し論文を改訂し、国際学会での発表を行い、国際査読誌への投稿を行う予定である。
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