本年度は、昨年度におこなった実証研究の成果を学会で発表した。国内では日本経済学会2017年度春季大会で、海外ではAsian Meeting of Econometric Society (Hong Kong)とSingapore Economic Review Conference (Singapore) で論文の発表を行った。いずれの学会でも討論者およびセッションの参加者より有益なコメントを得ることができた。 学会で発表した論文の特徴は、生産連鎖の観点から日本の輸入のパススルーに関する実証分析を行った点にある。具体的には、日本の産業連関表(2000年表、2005年表、2011年表)を活用し、日本銀行が公表する企業物価指数データの中の輸入物価データとのマッチングを行うことで、①為替レート変動が輸入物価にどのような影響を及ぼしているか(為替変動の輸入価格のパススルー)と、②輸入物価(輸入した原材料・部品・中間財等)の変動が国内の生産連鎖を経てどのように国内の最終財価格に影響を及ぼしているか(輸入価格から最終財価格へのパススルー)を分析している点に本論文の独自性がある。 本論文の①の分析は実際の為替レート変動と輸入価格へのパススルー率を推定したものであるが、②の分析は日本国内の生産連鎖(投入産出構造)を所与として輸入価格の変動が最終財価格にどのような影響を与えているかを計算したものである。②で計算した国内最終財価格の変化と実際の国内最終財価格の変化が一致するとは限らない。その違いをどのように分析するかという課題が残されており、この点を学会報告の際に指摘された。この点は今後さらに分析すべき課題であるが、本年度はこうした指摘を踏まえて論文の改訂作業に取り組んだ。論文の最終版は2018年度中に査読付きの国際学術雑誌に投稿する予定である。
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