研究課題
本研究は,多者間ネッティングの数理的基盤を構築することを目指した。システミック・リスクを緩和するにあたって,多者間ネッティングの重要性は十二分に認識されているものの,その実装は進んでいない。債務・債権の帰属問題(無数にネッティングの解が存在)がその主因である。本研究では,決済差額最小化原理(関与する決済差額の2乗和を最小化)によって多者間ネッティングの解を一意的に決定する方式を考案した。得られた多者間ネッティング理論は,重み付き有向ネットワークのヘルムホルツ・ホッジ分解(ネットワーク上の流れを勾配流と循環流に分解)と同等であることを確認した。循環流が債権債務関係の相互相殺,勾配流がネッティング後の債権債務関係を表す。以上は,それぞれの債権者・債務者間の相互信用関係に相違はないと仮定している。実務への応用に向けて,各債権債務関係にリスク度を勘案した定式化も行った。リスク度が大きなればなるほど, 債権債務関係の減却が妨げられ,ネッティングによる効用が働かなくなる。現在,このアイディアの特許申請を検討中である。最終年度には,多者間ネッティング理論の応用として,貿易収支関係と企業間取引関係に着目した。貿易のグローバル化により,貿易不均衡の問題を2国間ではなく,ネッティングと同様に多国間で捉える視点が必要となっている。例えば,三角貿易においては,2国間では貿易不均衡が生じていても,3国は貿易によって互恵関係にある。IMFによって提供されている貿易データに基づき,貿易収支構造についてそのような多国間的分析を行った。企業間取引ネットワークにおいては,勾配的な流れ成分はサプライチェインを特徴付ける。他方,ネッティングに対応する循環的な流れ成分は,経済成長エンジンとなりうるフィードバック・ループを表す。我が国における百万社間の取引関係データを基に,産業流の階層・循環構造を明らかにした。
すべて 2018 2017
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Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3173955
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Abstracts of the 6th Int'l Workshop on Complex Networks and their Applications (Lyon, France, 2017)
巻: - ページ: 12-14
巻: - ページ: 253-255