研究課題/領域番号 |
16K13376
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
太田 亘 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (20293681)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マーケット・マイクロストラクチャー |
研究実績の概要 |
本研究では、証券市場において、オーダーフロー情報より作成した注文不均衡が、証券の将来価格に対して予測力を持つかについて分析を行った。まず、証券の日中取引のデータであるティックデータより、実際に取引所に出された注文を推測し、それを用いて成行注文、指値注文、およびその他の属性ごと、買い注文と売り注文の差である注文不均衡を算出した。次に、それらの価格予測力について分析を行った。価格の上昇を予想する投資家は、その予想が価格に反映する前に急いで買い成行注文を出し、実際に予想が正しければ、その後に価格が上昇する。売りの場合は逆である。そのため、成行注文の注文不均衡により将来の価格変化を予測できると考えられるが、実際に予測できるとともに、特に大口注文の価格予測力が高いことを確認した。同様の分析を指値注文についても行ったところ、指値注文の注文不均衡は、発注のみを用いた場合もキャンセルを考慮した場合も、平均的に将来価格を予測できない、ということがわかった。指値注文は、発注・キャンセルを繰り返しながら有利な価格で約定しようとする投資家や流動性を供給する投資家が用いると考えられるが、指値注文の注文不均衡は、それを出している投資家の将来価格に対する予想を必ずしも的確に反映しないのが一因であると考えられる。また、本研究では公表情報を用いており、指値注文の約定までは特定できず、約定した指値注文による注文不均衡を用いた場合には、異なる結果が得られる可能性がある。以上の結果の一部を、大阪大学数理・データ科学教育研究センター金融・保険部門ワークショップ「証券市場の諸問題」において「注文流入情報の価格予測力」というタイトルで報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、証券の日中取引のデータであるティックデータを用いて、オーダーフロー情報を用いた研究を行うが、そのためのデータベースの構築を行った。本年度の研究では、東京証券取引所の2010年以降直近までの現物株式取引について、指値注文の発注を特定するためのプログラムを作成し、実際に処理を行った。ティックデータから成行注文を特定することは容易であるが、指値注文を特定することは板情報の遷移を調べていく必要があるため容易ではない。その容易ではない作業を終えることができ、今後の研究を計画どおりに推進することができると考えられる。また本年度の分析より、指値注文の注文不均衡は価格予測力がないことがわかった。これは、オーダーフロー情報を集計するにあたり、成行注文と指値注文を区別する必要があることを意味しており、今後の研究ではこの違いに十分に注意を払った分析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、注文不均衡情報のデータベース化および注文不均衡の価格予測力について予備的分析を行ったが、今後より詳細な分析を進める。指値注文の注文不均衡には価格予測力がないことがわかったが、指値注文の集計範囲で異なるのか、どのような状況でもそうなのかなど、頑健性のチェックを行いながら分析を深めていく。また複数市場間の価格予測力を分析することにより、私的情報を保有する投資家がどの市場で活発に取引を行うか、について分析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に高額データ購入を予定しているとともに、研究の進捗状況から次年度に資料整理への増額が必要となったため、本年度の使用額を少なくした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に高額データの購入を行うとともに、資料整理を当初予定よりも増額する。
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