研究課題/領域番号 |
16K13376
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
太田 亘 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (20293681)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マーケット・マイクロストラクチャー |
研究実績の概要 |
本研究では、証券市場において、オーダーフロー情報より作成した注文不均衡が、証券の将来価格に対して予測力を持つかについて分析する。証券の日中取引のデータであるティックデータより、実際に取引所に出された成行注文、指値注文、およびその他の注文を識別したうえで、本年は特に100万円弱の買い注文に焦点をあて、個人の価格予測力について検証を行なった。2014年に個人向けの少額投資非課税制度が導入され、2014年と2015年は非課税投資額が100万円に設定されていたが、大口の個人の一部は発注コストを節約するため、1回で注文を出す可能性がある。そこで、少額投資非課税制度導入後の100万円弱の買い注文にはそのような個人の注文が相対的に多く含まれていると想定し、分析を行なった。非課税制度導入後に100万円弱の買い指値注文が増加した銘柄は、ボラティリティの高い銘柄であり、一部の個人は、キャピタルゲインに対する節税効果の高い銘柄を選好していると考えられる。また、100万円弱の買い指値注文が増加した銘柄は、その後価格が下落する傾向にあり、一部の個人は集計でみて情報劣位にある可能性があることがわかった。先行研究において個人が平均して情報優位にあるか、情報劣位にあるかは結果が分かれており、また日本市場における個人投資家の特徴についての分析は少ないところ、個人の特徴の一つを実証的に示した点が本研究の貢献である。但し100万円弱の買い成行注文については同様の関係が見出せず、頑健性のチェック等が今後の課題として残されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、証券の日中取引のデータであるティックデータを用いて、オーダーフロー情報を用いた研究を行うが、そのためのデータベースを構築し、さらに板情報の変化から成行注文、指値注文およびその他の注文の復元を行なった。現在の日本の取引所に発注される注文は匿名であり、誰が発注したか不明であるが、本研究では注文金額および時期に注目し、機関投資家や個人などの注文が多いと考えらえる区分に焦点をあてた分析を行なっている。従来の多くの研究は、小口注文・大口注文の区別をしているが、本年は少額投資非課税制度導入前後の100万円弱の注文の変化に注目した分析を行い、個人の特徴の一つを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに構築した注文情報データベースを用いて、分析結果の頑健性のチェックを行う。ティックデータを用いることで個別の注文を復元することはできるが、それがどのような投資家から発注されたかは不明であり、注文の背後の投資家についての推測は大きな誤差を伴う可能性がある。その影響を緩和するため、注文情報の集計方法や分析期間等について様々な条件で検証を行うとともに、派生証券市場の情報を追加したり、空売り情報など他のデータベースとの接続をするなどにより、頑健な結果が得られるよう研究を進める。
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