研究課題/領域番号 |
16K13377
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
黒澤 隆文 京都大学, 経済学研究科, 教授 (30294507)
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研究分担者 |
松原 有里 明治大学, 商学部, 専任教授 (30436505)
井澤 龍 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (30761225)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 移転価格税制 / 法人税法 / 多国間情報交換協定(租税条約) / 税の透明化 / 経営史 / 多国籍企業史 / 政治リスク |
研究実績の概要 |
本年度の研究により,歴史研究面での成果としては,持株会社が欧州ではとりわけ地政学リスクや課税への対応として出現したこと,国籍企業が資産接収や課税を回避するために信託・議 決権委託や特殊な二重法人形態を多用したこと,スイス企業に限らず,欧州多国籍企業の多くが,リスク回避と米国当局の監視・課税の回避を目的に,中南米や 南アフリカ等に資産管理拠点を設置したことにつき多数の事例から具体像が判明した。これら研究の基盤となる共同研究・成果公開活動は主に以下である。1) 6月末Glasgow大学開催の会議 The Routledge Companion to The Makers of Global Businessとそれに続くABH年大会にてBen Wubsと黒澤の共著論文報告。2)8月初旬AOM (Atlanta開催)でのパネル: Business and Management in an Age of Rising nationalism: Historical PerspectivesにてM.Kipping, S. Decker, R.D. Wadhwaniらと共同パネル報告,8月10日: 経営史学会関西部会大会報告,2月Simon Mollan京都大学報告。 分担者の井澤は、論文4本(査読付: 1本、大学紀要: 1本、ワーキングペーパー:2本)の発表。国内外学会で3回(国際学会: 1回、国内学会:2回)の研究報告を行った。平成29年度では、企業・企業団体の政治的活動について主に研究し、国際租税制度が構築される面に注目した。 分担者の松原は研究専念期間を利用し,英語・ドイツ語文献に関する体系的な調査を実施した他,下記「現在までの進捗状況」に記すように移転価格税制,税の透明化に関する現状分析で成果を挙げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に予定した経営史研究者間の国際共同研究(代表者黒澤を軸に井澤参加) のうち,ORAへの応募やJ.O.Hesseとの協力は先方組織側の事情で断念し,またC.Kobrakの急逝でこれとの共著も不可能となったが,他方,最も重要な柱としていたBen Wubs, Neil Forbesとの共同研究やスイス多国籍企業2社の文書解析は順調に進んでおり,概ね順調と評価しうる。その柱は Routledge社より刊行予定の専門書であり,執筆者の急逝といった事情にも関わらずM.Bucheli等の新たな著者を加え編集作業を進め,年度内刊行が確実となった。またWEHC (World Economic History Conference, 2018年7-8月開催)のパネル "Passage to Panama: Nation States, Taxation and Multinational Enterprise in the Twentieth Century" に向けては新たな研究者ネットワークを構築し11名が報告予定である。 井澤は、研究期間中、論文8本(査読付: 2本、大学紀要: 2本、ワーキングペーパー:4本)の発表。国内外学会で9回(国際学会:3回、国内学会: 6回)の研究報告を行っている。制度の圧力を受けて企業組織が変化する過程だけでなく、企業の圧力により制度そのものが変わる過程も分析しようと試みることで、国際租税と企業の関係をより動態的なものとしてとらえようとしている。 松村の研究の進捗状況も,リオ・デ・ジャネイロ開催の国際租税退会(IFA)でのナショナルレポート「移転価格税制の将来・日本」が公刊され(2018年5月)また税の透明性に関する研究が,欧州租税学会(EATLP Zurich)のプロシーディングとして公表されており,計画どおりの順調な進捗といえる。
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今後の研究の推進方策 |
ブロジェクト全体としては,1) Routledge出版企画を順調に刊行まで進める,2) WEHC Bostonでの"Passage to Panama"セッションを成功させ,これをジャーナル特集号(Business History誌を想定)に結びつけ,またこれを契機に基礎概念・歴史像の再検討を進める,3)上記2つのプロジェクトの成果を総合し,各国をカバーした文献レビュー・新主題提案型の論文の基礎をつくり,また同時に法学分野の研究成果の取り込みを進める,以上3点を目指す。 代表者である黒澤個人の分析事例に関しては,ロシュ,ネスレ両社史料の解析を進めるとともに,特に南北アメリカ大陸・南アフリカ等を用いた租税回避スキームの形成について解明を進める。 井澤は、松原から紹介を受けた租税法学者との連携を深めながら、20世紀前半のイギリス、日本における国際課税史研究、多国籍業史研究を進める 。国際学会(2件)での研究報告が決まっており、英文論文誌への投稿を含めた更なる研究発信を予定している。なお、平成30年からは科学研究費(若手研究)に採択されており、研究成果の発展的継承も図る。 松原は,租税条約上の情報交換についての国内法の整備状況に着目しつつ,のマイナンバー制度とそれを整備する過程および個人情報保護法との関係についてチューリヒで報告を行う。
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