平成30年度は研究期間の最終年度として、前年度に作成したリクルート・ホールディングスのケーススタディを基に分析対象企業を拡大した。特に、退職者ネットワークが企業のイノベーションに貢献し、出身元企業との間で生まれるシナジー効果について分析した。退職者と出身元企業の提携関係は、3つのカテゴリーに分類できる。 1) アルムナイ・ネットワーク形成型: リクルートや米マッキンゼー・アンド・カンパニーのように、退職者グループが「卒業生」や「アルムナイ」として幅広いネットワークを形成し、同時に出身元企業が公式・非公式にアルムナイグループを尊重するカテゴリー。古巣がネットワークを尊重することが、退職者が提携努力をするインセンティブとなり、提携を成功させる相乗効果につながっている。 2) 起業家・ベンチャー提携型: 退職者が起業家、ベンチャー企業経営者として出身元企業と提携するカテゴリー。退職者が古巣の企業の外部者として提携するが、退職からの日数が長くなければ、古巣内の人的ネットワークを活用できるし、オペレーションの特徴、方針を理解している。純粋な外部者が設立したベンチャー企業より提携の効率性が高い。 3) 出戻り型: 一度退職した社員が再び、古巣の役員・社員として復帰し、事業に貢献するカテゴリー。出戻った役員・社員は、新入社員や転職者と比較して古巣の事業をよく理解しているだけでなく、外部のカルチャー、人脈、情報を古巣に持ち込む効果がある。そのことが、組織に刺激を与え、イノベーションに結びつく可能性が高まる。 3つのカテゴリーに分類された古巣と退職者との提携は、大組織の古巣で起きる官僚主義によって阻害される。そのような官僚主義を排除する戦略、組織、オペレーションの施策も本研究から得られた貴重な知見である。最終年度は招待講演数件と著書によって研究実績を発信した。
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