研究課題/領域番号 |
16K13387
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
内田 交謹 九州大学, 経済学研究院, 教授 (80305820)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 労働者保護 / リストラクチャリング / リスクテイキング / 企業間信用 / 株主総会 / 機関投資家 / 政策不確実性 |
研究実績の概要 |
本研究では、労働者の法的保護やmobility が企業財務政策に与える影響を分析することを主たる目的とし、関連して国家間におけるさまざまな制度の相違の影響についても分析している。本年度は主に次の分析を行った。 ①リストラクチャリング・リスクテイキング 労働者保護が強く、mobility が高い国ほど、業績悪化時に企業がリストラクチャリングを行う確率が高く、また通常時におけるリスクテイキングの水準が高いことを明らかにしているが、これらの結果が国の文化要因によって生じている可能性が明らかになった。特に本年度は、操作変数法やマッチングを用いて、労働者保護・mobility がリストラクチャリング実施確率やリスクテイキングに与える影響を推定する作業を行うとともに、先行研究に比べてオリジナリティの高い部分を特定する作業を行った。最終年度である2018年度にワーキングペーパーを執筆できる見込みである。 ②企業間信用:国際データを用いて、長期関係の価値が高く、労働者mobility の低い国において、金融危機時に企業間信用が企業価値に正の影響を与えるという頑健な分析結果を得た。国内外の学会で報告するとともに、論文を国際学術誌に投稿し、修正・再投稿依頼を得た。 ③法的労働者保護水準の異なる日本・イギリス・フランスのインデックス企業について、株主総会における各議案の投票結果データを入手し、機関投資家持株比率との関係を検証した。2018年度中に論文を国際学術誌に投稿する予定である。 ④University of South Carolina の Omrane Guedhami 教授、University of Alberta の Sadok El Ghoul 教授と共同で、労働者保護等に関する政策不確実性が企業の配当政策や現金保有などに与える影響について、分析に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は労働者保護・mobility と企業財務政策の関係に関する分析からスタートしたプロジェクトであり、労働者保護・mobility と関係のある長期関係の重要性(不確実性回避など)が、企業間信用の価値効果に影響することを明らかにでき、国際学術誌から修正・再投稿依頼を受けたことは大きな成果である。また労働者 mobility の異なる日本・イギリス・フランスの株主総会の国際比較研究は、2018年度の早い時期にワーキングペーパー1件を公表できる見込みとなった。さらに、政策不確実性に関する国際共同研究の着手に成功した。当初計画時点で予期しなかった点としては、これまでの研究結果が必ずしも労働者保護・mobility に直接起因している訳ではなく、他の国家的要因によって生じている可能性があることが明らかになったことや、株主総会に関する研究は、必ずしも国家間の相違が明確でない結果が得られたことがある。しかしながら、労働者保護・mobility と相関する国家ファクターが国家間の企業財務行動の違いに影響していることを明らかにし、株主の行動についてもこれまでにない知見が得られていることから、概ね順調と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究プロジェクトを着想するきっかけとなった Jeffrey Coles 教授と直接面会して進捗状況及び新しく生まれた問題関心について説明し、アドバイスを得ることで、より適切な分析手法を考案し、貢献度の高い質の高い研究に取り組む。また、海外研究者との共同研究も、質を高める効果があると期待している。さらに、大学院生や元指導学生である海外研究者との共同研究体制を通じて、ユニークなデータを収集するとともに、分析作業の効率化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画において University of Utah の Jeffrey Coles 教授に研究アドバイスを受ける予定にしていたが、他の予算(国際共同研究加速基金)にて一年間 University of Utah に滞在し、定期的にアドバイスを受けることができたため。次年度の出張予算に回して研究アドバイスを受けることにしたい。
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