函館西部地区バル街(以下、バル街と表記)は、「食による地域興しイベント」の代表的な成功例の1つと評価されているけれども、開催地域である函館西部地区(以下、西部地区と表記)に対する持続的な効果や影響について、既存研究では必ずしも十分な検討が行われてこなかった。 バル街を開催することで、西部地区にどのような変化が生じたのか。このような残された課題の一端を解決するために、1989年から2018年までの『北海道新聞』の記事を素材としたテキストマイニング分析を行い、「バル街の開始前と開始後で、西部地区をめぐる言説はどのように変化したのか」という問いの解明を試みた。 分析の結果、「バル街の開始前」(1989年~2003年)と「バル街の開始後」(2004年~2018年)では、西部地区をめぐる言説の(1)主要トピックスと(2)訴求点が異なるという示唆を得た。(1)西部地区をめぐる言説の主要トピックスは、「バル街の開始前」には「景観・町並み・建物」と「観光」の2つだったが、「バル街の開始後」には「景観・町並み・建物」と「観光」、「バル街」の3つに変化した。(2)主要な訴求点には、2つの変化があった。第1に、バル街を楽しむという新たな訴求点が加わった。第2に、「景観・町並み・建物」に関して強く訴求される行動が、「建設・開発と保存」という対立関係にあった2種類の行動から、「保存・改修・活用」という一連の行動へと変化した。 『北海道新聞』に掲載された西部地区をめぐる言説が西部地区の実態を反映したものであるならば、このような西部地区をめぐる言説の変化と同様の変化が、西部地区でも生じたと推定される。バル街の開催を契機として、西部地区が景観・町並み・建物をめぐる対立の場所から、景観・町並み・建物を保存・改修・活用し、市民が楽しむ場所へと変化した可能性が示唆された。
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