本研究に着目した理由を、「医療保険制度下にある日本の医療費は、医学的な根拠に基づいた診療点数で評価されるが、病気でない通常出産は自費医療で、出産前後の医療が産婦の体調や母性の付与、新生児成育に与える影響が大きいにも関わらず、出産付帯医療として取り扱われており、自費医療として新たに評価する必要がある」と申請時に述べた。具体的には本研究の目的でもある、医学との学際的研究及び、産前産後自費医療が産婦に与える影響と需要者としての産婦からみた価値の評価分析が求められる。そこで、母性医学の研究者と学際的な議論を行い、まず助産院(聞き取り調査)・京都府助産師会への調査分析を行った。医療者の調査をふまえ、2017年に出産前後4か月の女性208人に対する調査、同回答者に対して2019年に時間経過による出産前後のニーズなどの変化を分析するための調査(回答者98人)、2018年に有職女性と専業主婦のニーズなどの比較調査(回答者105人)、これらの調査分析を基に、2019年に1030人の女性(産後3か月・1年・2年・10年以上)の大規模調査を行った。その中で、出産および出産前後のケアに対するWTPの測定も行ったが、インターネット調査のバイアスの影響を分析するため、2020年に対面聞き取り調査(回答者84人)を行った。産前産後の女性と社会とのコンタクトポイントとなる出産・産前産後のケアに対するニーズや課題ついて調査分析結果から、産後ケアへのニーズはほとんどみられなかった。医学の目的である医学上客観的な母子の健康な状態は、産後の女性にとっても必要不可欠ではあるが、医学上の問題がないほとんどの女性が、出産によって身体的に損なわれたと主観的に感じる項目が多くあり、そのケアがニーズとして、医療経営論から社会の中で包括的に認められ、提供される仕組みの構築が必要であることが明らかになった。
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