研究課題/領域番号 |
16K13399
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
上野 学 東北大学, 経済学研究科, 助教(プロジェクト特任) (70748524)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 監査論 / 実験研究 / 実証研究 / 監査人の交代 / 監査の質 / 監査報酬 |
研究実績の概要 |
本年度の研究課題は監査人と被監査会社の取引の内部的な関係性を観察することであった。 第一に監査人のデータ、監査報酬のデータと、その他有価証券報告書上にあるデータを用いて、監査人の交代と監査報酬の減額もしくは増額の因果関係を実証する研究を現在まで行っている。監査人交代はリスクを背負った被監査会社に起こるといえる。これを基に通常の論理を持ちいれば監査報酬は増額すると考えられる。それに対し、多くの欧米の研究では、初度監査では監査報酬は割り引かれるとする。準レントの獲得を見越し、低廉な監査サービスを提供するとの仮説に基づく。どちらの仮説が支持されるかを因果関係を析出することで検証している。一般に因果関係を観察研究で行うことは非常に困難を伴い、統計手法に関して多くの文献にあたりつつ、慎重に行っている。また、監査報酬と監査人交代は理論的に論じられることは多くとも、必ずしも実証されることが多くなかった。そのため、数少ない研究を十分に吟味し、リサーチデザインを構築した。現在分析を行っている最中であり、公表するに値する形まで到達していないが、論理面、および先行研究の総括としては一定の結果を得ている。監査の質と監査人の独立性、監査報酬との関連性は多義的な結果を得ている場合が多いことを研究の出発点とし、現在統計的因果推論の枠組みで分析の総括を行っている。 第二に、実験研究を同時並行で行い、実際のデータではなく、監査の質と報酬との結びつきを作為的に生じさせたことから生まれる実験データを基に研究を行った。実験監査研究の積み重ねがあまり多くないため、研究上の作法、手続きを従前の研究に倣って実験を行った。結果の公表までには至っていない。初回実験では、被験者に多くの自由な選択肢の幅を与えたが、十分なコントロールをできたかが課題であり、データの信頼性に関わると考えるため、その点の改善法を模索している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究において、監査論の実証研究の総括は早々にできたものの、統計的因果推論の枠組みの研究に相当な時間を要した。この分野は比較的新しい領域であり、誤謬なく手法を使いこなすことが求められる。回帰分析のみで結果を語ることは容易であるが、新たな枠組みを用いることで、監査研究上の限界点を超える試みであった。そのような新規の手法を用いた理由としては、公認会計士による監査について、その独立性、および品質が極めて厳しく問われる昨今の状況を意識したことが挙げられる。この現状を意識した結果、監査人の独立性等を測るに際し、より正確かつ説得力のある実証を試みるべきであるとの考えに至った。しかし、文献の理解に予想以上に時間がかかり、正確な実証を行うことを目指した結果、実証分析の入り口となる分析のみで、1年目の研究を終えることとなった。 同時並行で監査の質と監査報酬に関連性を作為的に与えた環境での経済実験を行った。実験構成等を作成し、概ね適切に実施することができた。実験監査研究はまだ確固とした手法が開発されているとは言えないといえる。その中で、先行研究を基にし、実験デザインを行う点で時間を要した。現在、実験データをまとめ、論文として公表できる水準かを所属研究科のワーキングペーパーシリーズに掲載することで意見集約をし、検討したいと考えている。実験監査研究の全体像の把握に時間がかかり、慎重に実験準備を進めた結果、当初予定していた分析の途中で本年度の研究を終える形となった。 緻密な分析を行うための土台を形成し、実験研究の初期段階として実験手法の効果を測ることができた。この二つの研究を早々に終え、次の段階へ進むため、現在分析の総括を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は途中段階の分析を基にしつつ一定の結果を得たところで次の段階へ進む。まず、現在行っている2つの分析の総括を行い、論文、研究ノート、ワーキングペーパー等の形で公表する。論理面で誤りの無いものとする。 その上で、次の段階として、具体的には、監査人の独立性とともに監査品質について実験研究で明らかにする。当初の計画をやや前倒しして、監査人役、経営者役の被験者に加え、投資家役を配置し、投資家の関与、監査に対する評価、その評価の影響を実験デザイン上で作為的に結び付け、投資家の関与がいかに監査を変え、かつ監査品質に貢献するか、監査品質が高いとの評価を投資家から受けることがいかに被監査会社にとってメリットとなるかを示したい。実験の規模も必要があれば大きなものとして実施する。昨今の会計不正問題に端を発し、不正を発見できないことに世論の公認会計士監査への批判は集中しているが、正しいことを正しいと証明する財務諸表監査の基本機能も見直すべきであると研究代表者は考える。監査人、被監査会社の関係性が投資家の関与で如何に変化するか、また、その評価を投資家が如何に行い、それが被監査企業の業績といかに結びつくかを明らかにする。実験研究はまだ確固とした手法が開発されているとは言い難い。多くの優れた文献が存在するが、それらを考慮し、かつ、改善を行ってより意義のある研究としたい。また、監査実務への貢献等を考慮することも重要と考える。そのための意見等を集約するため研究の公開を積極的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究費について、全般的に計画的に使用することができた。予想よりも出張が少なく、その分の経費がやや残った。
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次年度使用額の使用計画 |
図書に関しては自身の書籍を用いていたが、新たな文献を実験研究系で2冊程度、統計書で3冊程度ほど購入する。次年度も本年度と同様、計画的に使用する。
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