本研究は、企業から一方向的に法定開示される財務情報は、投資意思決定の形式的スクリーニングに用いられ、実質的に投資家が有用であると納得する情報は、投資家主導で入手されたものであるという仮説のもと、投資家主導の入手情報の効用を検証する実験、開示システム改善のための提案およびその実行可能性の検証実験を3年間に亘り積み上げた。 1年目に実施した実験では、情報利用者が主導的に入手した情報の方が投資結果の成否にかかわらず納得感情が高いことを示したものの、追加インタビューでは、判断材料となる情報が意思決定を左右している感覚は希薄で、個人投資家は、より情動的(気分的)なものに左右されている感覚があることが判明した。その中でも特に心身状態が判断材料の質よりも総合的判断を含む場面では重要であることが明らかになった。 上記を踏襲し、2年目以降は研究の主軸を「情報利用者の心身状態」と「意思決定・判断能力」の関係の探求にシフトした。ストレス状態と財務情報を用いた判断作業の関係を実験し、ビジネス環境に特有のテクノロジーストレスの存在を確認した。さらに最終年度は芸術療法の一環である色彩療法の知見をビジネス文書に施し、ストレス増減が観察されるかの実験で、色彩療法の定説とは異なる特定の色彩においてストレス減が見られる結果を得た。 一連の実験から、情報利用者である「人」は身体を有している以上、ビジネス環境に物理的反射反応を起こして情動を発現する生き物であり、情報利用による頭の判断以前に、物理的環境要因に大いに左右されていることが確認された。法定開示が複雑化する中、情報が判断材料として有用に機能する以前に、現場のストレスを増やすという意図せざる結果を生んでる現状を指摘することができた。今後は、有用性追求による開示複雑化を防止し、意思決定判断能力をクリアにする開示デザインの工夫をすることも有効な道である。
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