研究課題/領域番号 |
16K13405
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
石原 俊彦 関西学院大学, 経営戦略研究科, 教授 (20223018)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 財務管理 / 基金 / 資金調達 / 資金運用 / 地方自治体 / リスクマネジメント / 内部統制 |
研究実績の概要 |
平成28年6月、関西学院大学大学院経営戦略研究科石原研究室では、全国の地方自治体を対象とした資金管理(資金調達および資金運用)に関するアンケートを実施した。アンケートは、大分県国東市役所の後援を得て実施した。本調査は、日本学術振興会科学研究費補助事業(挑戦的萌芽研究費:課題番号16K13405)「わが国地方自治体における資産負債改革と成果志向型財務管理基本方針の策定」(研究代表者:石原俊彦、研究協力者:益戸健吉)によるものである。本研究のアンケートでは、都道府県、政令市、中核市、旧特例市、特別区、近畿管内市町村、九州管内市町村(熊本県を除く)計597団体にアンケートを依頼し、324団体の回答と199団体から「資金調達・運用管理規程」の提供を得た。 本研究の申請書では、研究目的について次のような説明が行われている。すなわち、新地方公会計の導入でわが国自治体には、貸借対照表を用いた資産負債の管理が求められている。自治体では多額の基金(資産)と地方債(負債)を保有しているが、基金と地方債の統合的管理がなされず、安全性と効率性の双方の実現を企図した適切な財務管理がなされていない。 これは資金の調達と運用におけるリスクの明確化と、それをマネジメントする内部統制を担保する基本規程(条例による)が欠けていることに起因している。英国では勅許公共財務会計協会(CIPFA)の「資金管理実務規範」に基づき、各自治体がリスクを明示した「資金管理基本方針」を作成している。本研究では日英自治体の「資金管理基本方針」に基づく資金管理について比較研究し、わが国自治体の財務(資産負債)管理における有益な「リスク・マネジメント」のあり方を示し、成果志向型の財務管理に転換する「資金管理基本方針」のモデルを提示することを目的として最終年度の研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、今年度以下に整理するような内容で研究成果を集約している。 まず、わが国自治体における資金運用の現状を基金や歳計現金等の残高、あるいは、その運用の状況を概観した。そこでは、普通会計積立基金(1団体平均)の運用状況が示されている。現金・預金割合は全団体平均88%であり、どの団体区分においても現金・預金割合は常に高い。一方、有価証券の割合を見ると、全団体平均は9.6%であり、特別区を除くどの団体区分でも有価証券の運用割合が低い。わが国は中期・短期国債が2016年からマイナス金利になるなどの超低金利が続いているために、現金・預金中心の運用では、十分な資金運用収益を挙げることは困難である。 また、土地開発基金の運用状況を概観した。そこでは、現金預金割合は都道府県の72.5%を筆頭に全団体平均でも47.4%を占めている。土地開発基金は公共用地先行取得の目的により、土地取得や土地開発公社に貸付できる定額運用基金である。土地開発基金の現金・預金は、歳計現金に移管すれば支払資金として活用され、積立基金に移管すれば運用資金として活用できるものであるが、土地開発基金に滞留していれば何も生み出さず、機会費用が生じている。積立型基金における現金・預金運用の割合の高さと土地開発基金における現金・預金の割合の高さは、ともに資金管理に官関する内部統制が土地開発基金でも構築されていないことを示している。 そして、わが国自治体における資金調達の現状を、普通会計起債平均残高(1団体平均)とその利子負担率で示したものによって考察を行った。起債残高の「積立基金額」に対する倍数は、都道府県は約11倍、政令市は約18倍であり、全団体平均額で比較すると約6倍となる。また、起債・利子負担率の全団体平均は1.20%であり、起債の利子負担が地方自治体財政を圧迫していることを確認することができる。
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今後の研究の推進方策 |
地方自治体における資金調達と資金運用では、資金の安全性と流動性の確保が、民間部門を上回る水準で求められている。その上、わが国では現状超低金利の状況にある、資金運用難や調達金利の低下により、資金の効率性の追求が非常に軽視されやすい環境にあると考えられる。しかしながら、コンプライアンス重視の現金出納リスク管理だけではなく、戦略性を踏まえた資金管理(調達・運用)とリスク管理の違いを認識したうえで、安全性と流動性だけではなく、金利変動リスクを適切に管理することで、合理的な資金運用利回りの向上と資金調達利回りの逓減を実現することが、昨今の地方自治体には求められている。本研究では、そのために必要とされる内部統制の構築要件を解明することを目的としている。本研究では今後、その嚆矢として、アンケート結果から、わが国自治体が資金管理においてどのような現状にあり、今後解決すべき課題として何を考察の対象とすべきかを明らかにする。 その上で本研究では、地方自治体資金管理における資金調達・運用の事業としての認識、資金管理規程のリスク統制、資金管理組織の権限と責任、一時借入れにおける内部資金と外部資金の考え方と資金運用の関係、支払い資金を逼迫させる要因、起債の目的と調達手法、職員の教育・研修等の現状を、本調査のデータにより分析し、リスクを統制する手法の考察を企図するものである。そして最終的には、地方自治体資金管理における調達と運用の内部環境と外部環境に関わるさまざまなリスクを考察するための基礎データの収集から、資金管理リスクを統制するための有効なモデル(内部統制構築の要件)を解明することを目的に最終年度の研究に取り組むこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算執行の残高は一万円未満であり、当初の計画通りに金額で執行できたと考えている。なお、平成28年度に行う予定であった資料の複写を平成29年度の調査を踏まえて行うことにしたため、未使用額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
残額は3月末に購入予定の印刷用コピーカードの代金相当で、次年度において執行の予定である。
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