研究課題/領域番号 |
16K13410
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
菅野 摂子 明治学院大学, 社会学部, 研究員 (60647254)
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研究分担者 |
柘植 あづみ 明治学院大学, 社会学部, 教授 (90179987)
齋藤 圭介 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (60761559)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 妊娠・出産 / 出生前検査 / 男性 / 流産 / 共働き / 家族 / 父親参加 / 男性不妊 |
研究実績の概要 |
昨年度作成したインタビューガイドをもとに父親7名(うち、障碍のある子どもを育てている父親2名、その他5名)のインタビューを行うとともに、男性不妊の治療に携わっている泌尿器科医3名にヒアリングを行った。 この中で、パートナーが出生前検査を受けた男性は(はっきりとわかる範囲では)1名のみであったが、パートナーが流産した経験がある、とした男性は2名いた。パートナーの流産経験は、男性にとって子どもを持つことのみならず、女性が妊娠・出産において心身ともに厳しい経験をし、感情的にも揺れ動くことを理解する大きな要因になっていた。子育てに積極的に関わっていることも語られた。パートナーが妊娠中、特にトラブルがなかった事例においては、妊娠期間中に何らかの行動変容があったり、親になることを強く意識した男性はほとんどいなかった。 ただし、2人目の子どもを望んでいなかった、と語った男性は、2人目の妊娠の際、共働きできちんと育てられるか不安を感じ、パートナーに出生前検査を受けるよう勧め、実際に受けて、結果は「確率が低い」であり、出産に至った。 障碍のある子どもを育てている2名は、ともに当該児のあと複数人の子どもを持っており、出生前検査は受けていなかった。配偶者は専業主婦であったが、障碍のある子どもの育児を含め、家事・育児に積極的に関与していた。また、障碍のある子どもの親同士のネットワークを築いており、子どもが障碍を持っているかどうかと育児・家事の分担をどうしているかの関係を今回の事例をもとにさらに検討していきたい。 また、3名の医師から、男性側が原因で起こる不妊について、具体的な治療や検査の流れとともに、患者である男性の様子や医師として伝えていることなど、聞き取ることができた。女性側が原因の不妊問題と対比的に論じられる可能性も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
男性7名と泌尿器科医師3名へのインタビューが達成でき、出生前検査で診断されうる障碍を持った子どもを育てている父親2名(病名は異なる)から、出生前検査への考えと生活の様子を率直に語ってもらえたのは大きな成果であった。 当初の予定では男性不妊患者も対象として検討しており、研究代表者の前所属機関では、男性不妊患者をインタビューする際には再度倫理審査を受けることが推奨された。だが、当該年度に実施した泌尿器科医へのインタビューから、男性のパートナーに対する自責の思いや、自ら積極的に治療するというよりパートナーへのさまざまな配慮によって検査に至ることが語られ、男性不妊と出生前検査との連続性は明らかにはならなかったため、男性不妊患者へのインタビューは時期尚早と判断し、実査を行わないこととした。 ただ、女性側の不妊と比較する道筋ができたことは収穫であったと考え、平成30年度の調査に繋げていく。 また、男性へのインタビューを進めるうちに、パートナーの不妊治療や習慣性流産の経験、共働き家庭の困難などが語られるなど、新たな問題も浮上した。男性にとっての生殖問題は、これまで言われてきた孕ませる性としての男性性によってのみ説明できるものではなく、パートナーの妊娠・出産経験や、共働きかどうか、それまでの人生経験が反映されることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度のデータを用いて、研究グループ内でさらなる議論を行い、平成30年度中に2件の学会発表と2本の学会誌への投稿を予定している。学会発表では、当該研究グループ以外の研究者から意見を伺い、分析を深めていきたい。 追加のインタビューについて、配偶者の流産・不妊・死産を経験した男性をさらに加えていくことを検討しており、女性の死産経験者による当事者団体とコンタクトを取り、リクルートに努めていく。 また、男性不妊の文脈では、現在泌尿器科医は妊娠したところまでしか関与しておらず、それ以降、出産に至る期間は、産婦人科領域での医療となる。従って、男性不妊の問題と出生前検査の接点を捉えることは泌尿器科医へのインタビューだけでは困難であるが、一方で、女性への調査や産婦人科医の語りから男性不妊をあぶりだすことも、前年度までの科研費研究「医療技術の選択とジェンダー―妊娠と出生前検査に関する調査」を鑑みて、難しいと思われる。従って、今後、男性・女性両方のカウンセリングを行っている医師への調査を検討している。 これらのデータを付加していくことによって、出生前検査への男性関与の潜在的可能性を含む議論、さらには男性にとっての妊娠・出産の諸問題を示していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
インタビューデータはパスワード等のセキュリティ管理を徹底し、共有データベースを使用することにより、メンバー間でのデータ共有は滞りなく行われた。そのため、データ管理用のPCを購入する必要はないと判断した。 また、インタビューは名古屋と新潟で一度ずつ日帰りで行ったため、計上した旅費よりも費用がかからなかった。岡山に在住する共同研究者の斎藤圭介は、インタビューや打合せのための交通費を分担金で賄った。 インタビュー調査が順調に進み、テープ起こしや謝金での出金が続くと予想されたため、事務処理を頼む予定だったアルバイトを雇用することはなかった。
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