研究課題/領域番号 |
16K13418
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
丹野 清人 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (90347253)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 退去強制令 / 在留特別許可 / 比較人権社会学 |
研究実績の概要 |
外国人労働者またはその家族として日本でやって来た者で、何らかの罪を犯してしまった者、しかしその犯した罪が軽微なものであって、刑務所には収監されておらず、執行猶予判決であったにもかかわらず、日本滞在に必要なビザの更新の際に、その軽微な犯罪を根拠に退去強制令が発令されたケースの事例研究を行った。 法務省が公示する司法統計にも現れない部分のケースであり、極めてセンシティブな問題を扱うため、調査は弁護士事務所に通い、弁護士にあらかじめ見ていいと許可を受けた資料で、その資料で個人情報が記載されている部分に予めマスキングしてもらってケーススタディを行った。なお、弁護士事務所内でとったノートを事務所外に持ち出す際には、弁護士にノートを確認してもらい、個人情報の持ち出しに当たる部分がないことを確認した。また、本年度に発表した公刊物『「外国人の人権」の社会学」や論文等において公表する際にも、今一度弁護士に全てをチェックしてもらってから公表した。 また、日系人の少年で少年非行に走ってしまい、その少年非行での犯歴が原因となり退去強制令が発布されて、ブラジルに強制送還された少年3人にサンパウロ市内でインタビューをしてきた。日本から出国するときには少年であったが、インタビュー時点ではいずれも23歳以上になっていた成人であったが、ブラジルでのインタビューは首都大学東京が学術交流協定を持っているサンパウロ大学に来てもらい、サンパウロ大学の倫理規程にあった形でインタビューを行った。当初、少年期に強制的に帰国させられて、帰国後の適応がうまくいっていないことを想定していたが、単純にはそのように想定できないものであることがブラジル調査で確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年2月14日に『「外国人の人権」の社会学:偽装査証、少年非行、LGBT、そしてヘイト』(吉田書店)を刊行した。正規の書類を提出したにもかかわらず、法務省入国管理局から一方的に偽造文書だと決めつけられてビザの更新が認められず、退去強制令が発布されたボリビア人、デカセギ就労にきた母に10歳で連れてこられたが日本の学校で教育を受けることができずに少年非行に走ってしまったペルー人、トランスジェンダーの同性愛者で日本人の事実婚状態のパートナーがいるにもかかわらず、異性愛者であれば法律婚ができて退去強制令が停止されるような状況であるのに、同性婚を日本が認めていないが故に強制退去が迫られているブラジル人、そしてヘイトスピーチの対象とされてそれへの対抗的市民運動を行った川崎市川崎区桜本の在日コリアンを事例にして、それぞれのケースで日本の裁判所がどのような事実認定と判断過程をとってそれぞれの結論に至ったのかを明らかにした。 この際に、言語学に端を発し、文化人類学でよく使われて来たEmic aproach、Etic aproachを比較の際の方法的起点とし、そこから全体との枠組みとして「比較人権社会学」というものを組み立て、この観点から研究成果を一つのまとまったものとして研究期間中に刊行することができた。研究期間内に刊行物まで出せているというのは、極めて順調に進んだ証拠であり、これ以上はないというペースで研究が進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
日本国内で行うべき研究の進捗状況はこれ以上にないというペースで進んでいると考えているが、実際に退去強制例が執行されて帰国させられてしまった者への調査はようやく緒に就いたばかりである。日本国内でも退去強制令処分を受けている者に出会うためには、外国人事件を手がける弁護士の協力なしには進めることができないが、日本から帰国させられてしまった者と出会うためにはもっと特殊な関係を保持しないことにはたどり着くことができない。 この点で、どうしても海外調査については、急に進捗状況が劇的に進むということは考えられないが、それでもこれまでやって来たことで少しずつ積み重ねも生まれて来た。その点では進めるべき方法が間違っているとは思えず、ゆっくりと積み重ねて行くことで着実に進ませようと考えている。犯罪歴criminal recordという極めてセンシティブな情報を扱うことから、この点では慎重の上にも慎重を期すべきことは当然であるので、着実に進めることは望ましいと考えている。 ただ、日本の労働需要の逼迫が新たな外国人労働者受け入れへ政府を走らせているのは確実であり、様々な法改正案が出て来ているところでもある。これまでケーススタディで行って来た事実から、この現在出て来ている外国人労働者受け入れのための政策案の検証作業も今後進めて行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、学内での役割として与えられた任務が多く、こちらの研究でのフィールドワークをうまくこなすことができなかった。その分、デスクワークというか執筆活動に従事することができたので、爆発的にアウトプットとしての研究成果を残すことはできた。本年は予定通りに出費を行い、予算も消化することに務める。
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