研究課題/領域番号 |
16K13422
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研究機関 | 群馬医療福祉大学 |
研究代表者 |
川端 奈津子 群馬医療福祉大学, 社会福祉学部, 助教 (70770105)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 発達障害 / 職場定着 / 高機能 |
研究実績の概要 |
初年度である2016年度は、知的障害を伴わない高機能群の発達障害者(以下、当事者)の安定就労の困難さが深刻であり、職場への定着支援が課題となっているなかで、当事者はどのように職場の人材として能力を発揮しながら、日々起こる困りに対処しながら職場に調和していくのかについて、そのプロセスに着目したインタビュー調査を基本として展開した。 具体的には、発達障害の医学診断を受けており、同一職場で6ヶ月以上の就労を継続している当事者を対象に、「困りの対処方法・馴染んだ実感・同僚等との相互作用・職業生活継続の支え」の項目を中心とした個別の半構造化インタビューを実施し、内容分析をすすめた。なお、障害特性への配慮から、インタビュー前の顔合わせなど研究担当者との関係づくりはを丁寧に行ったのちに、結果の妥当性を高めるため1人につき2回のインタビューを、所属機関の研究倫理申請許可を得た上で実施した。未診断の頃に離転職を繰り返し現在の職場に定着するまでの経過には、自己と向き合い苦悩する状況が描き出されている。 また、現段階において、就労場面における困難の背景に業務の「得手不得手」に極端な偏りが存在する一方で、当事者自身はそれを認識して偏りを活かして「強み」にする、あるいは「抑える」という「調整」をすることで対処スキルを習得し、日々起こる問題を能動的に解決している内面性が浮き彫りになってきている。これは、要支援対象として受動的な存在としてクローズアップされがちな当事者も、自身の特性への自覚と理解が深まることで、環境に合わせて能動的に何らかの自己調整をして職場に調和していく可能性が示唆されたことは、比較的新奇性の高い結果であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
発達障害をもつ当事者へのインタビュー実施については、その障害特性から進行に不安定要素が多く伴うことから時間を多く要することが予想された。対象者には二次障害として精神疾患をもつ方もおり、インタビューでは、過去の就職にまつわる失敗経験を思い起こさせるきっかけにならないように、聞き手側には慎重な対応が求められた。そのため、事前の情報収集や、倫理的配慮から理解を得るための面談や関係作りに時間をかけ、インタビュー回数を2回設けることで信頼性と精度の向上に務める必要があった。これらのことから手続き作業も含めインタビュー調査の実施が年度後期からになってしまった。 また、対象となる当事者の選定については就労支援機関からの紹介によるものであったため、当事者のペースを尊重したため計画通りに運ばずデータの集積に時間が予想外にかかった為だと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、【調査1:当事者インタビュー】の語りの分析を終え、職場環境に調和していく過程でおこる具体的問題や気持ちの揺らぎに対して、どのように対処しながら「職場の人」となっていくのかを描き出すことに取り組む予定である。 さらに並行して、2017年度実施予定の【調査2:当事者はいかに就職という移行状況を乗り越えるか(職場従業員への質問紙調査)】について、【調査1】で生成された仮説をもとに、職業人としての当事者に対する意識変化や、その存在が職場にもたらす正の効果と効果を生む条件を、周囲との相互作用の視点から明らかにする予定であり、すでに所属機関の倫理審査許可を得ている。そして、その質問紙調査に協力していただた企業および従業員等のなかからインタビューに協力をいただける方に対して調査を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に使用額が生じた理由としては、第一に諸事情により調査の実施が遅れたことでインタビューの回数が予定より下回ったことがある。加えて、研究代表者が学内業務役割の増大に対して、本研究へのエフォートの時間配分ができなかたことも一因である。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度の使用計画としては、当初の計画を進行し、1)インタビュー調査の完結および分析結果を公表する、2)企業への質問紙調査の実施および分析結果を公表する、ことで前年度から繰り越しとなった費用を執行する計画である。
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