研究課題/領域番号 |
16K13426
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
野呂 雅之 関西学院大学, 災害復興制度研究所, 教授 (40755873)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 原発 / 避難計画 / 情報公開 / 受け入れ計画 |
研究実績の概要 |
原発立地地域である全国13地域で、原子力施設からおおむね30キロ圏内の緊急時防護措置準備区域(UPZ)にある21道府県135市町村の避難計画を検証するため、立地地域の現地調査として、1)6月に川内原発の立地地域である鹿児島県薩摩川内市で住民の聞き取りをするとともに、面会による調査に応じなかった鹿児島県に対して質問票による調査を実施、2)6月に高浜原発の立地地域である福井県高浜町で住民の聞き取り調査を実施、3)7月に柏崎刈羽原発の避難計画について新潟県に聞き取り調査を実施、4)7月に高浜原発の避難計画について福井県に聞き取り調査を実施した。 それと並行して避難計画の分析によって、本来ならば災害対策基本法等に基づいて作成する必要のある避難計画を5道県(北海道、鹿児島県、長崎県、佐賀県、山口県)が策定していないことがわかり、当該の道県にヒアリングを実施した。 政府の原子力防災会議は原発立地の13地域ごとに避難計画の具体化の支援を決定し、これに基づいて内閣府は立地地域ごとに地域原子力防災協議会を設置、協議会の元に避難計画の策定支援をする作業部会を設けている。そのため、5道県が避難計画を策定していない経緯等を調べるため、全国13地域の作業部会の議事録の情報公開請求したところ、議事録を作成していないという回答があった。 一方で避難計画の策定には住民の避難訓練が欠かせないとの視点から、高浜原発の立地地域で実施された広域避難訓練の課題を分析するとともに、平成30年3月には内閣府が策定中の原子力防災訓練のガイダンスに関する聞き取り調査を実施した。 また、避難住民を受け入れる自治体の避難者受け入れ計画の策定状況を調査するため、全国13地域の135市町村の避難計画から避難先を割り出した。具体的な受け入れ計画の課題に関して平成30年3月、受け入れ計画を策定済の兵庫県豊岡市に聞き取り調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(理由) 平成29年度の年次計画として、1)原発立地地域の現地調査、2)避難先自治体の避難者受け入れ計画の収集・分析を挙げていたが、1)については川内原発、高浜原発、柏崎刈羽原発の立地地域で現地調査を実施した。それと並行して平成28年度に収集した全国13地域の避難計画の分析を進めた結果、災害対策基本法等に基づいて策定が必要とされている避難計画を策定していない5道県の存在がわかり、内閣府が支援する原発立地の全国13地域における避難計画策定の経緯の問題点が浮かび上がってきた。 東京電力福島第一原発の事故後に原発を再稼働するにあたっては、本来ならば避難訓練を繰り返し避難計画の課題を検証して練り直し、住民の安全性確保に最大限の努力をはらうべきであるが、実際は再稼働後に避難訓練をするという実態であることに着目し、内閣府が策定を進める「原子力防災訓練の企画、実施及び評価のためのガイダンス」のヒアリングを実施した。原子力防災訓練の結果を踏まえて避難計画の課題を洗い出すという視点で論文をまとめた。 2)については、全国13地域の21道府県、135市町村の避難計画を分析して、UPZの住民の避難先となっている自治体を洗い出し、避難者の受け入れ自治体は595市町村に及ぶことが判明した。これは、すでに原発が稼働している立地地域を中心に受け入れ計画の策定状況及び課題を検証するにあたっての基礎資料となるものである。
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今後の研究の推進方策 |
原発立地地域の避難計画に関しては、自治体及び当該地域の住民のヒアリングとともに、全国13地域の作業部会の議事録を情報公開請求することによって策定経緯を明らかにすることを計画してきた。原子力災害時に避難計画は住民を被ばくから守る最後の対応手段であるが、その策定過程がどれだけ住民に情報開示されているのかを明らかにするため、「議事録は策定していない」という情報公開請求に対する回答について異議申し立てをするなどして、「机上の空論」といわれる避難計画の問題点を具体的に明らかにしていくことを考えている。 具体的な調査としては、原発立地地域の住民を対象に地域防災計画や避難計画について中長期避難の計画の必要性等のアンケートを実施する。予防的防護準備区域(PAZ)とUPZの避難に関する意識調査のほか、避難先におけるセカンドタウン、二重住民票、準市民制度など福島原発事故で議論された二地域居住に向けた制度に関しても周知度を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の研究を進めるなかで、受け入れ自治体の洗い出しをした結果、600近い自治体が避難先になるが、先行的にヒアリングをしたところ受け入れ計画の策定が難航している状況が浮かび上がった。 そのため、平成30年度には原発立地地域の住民を対象にしたアンケートを予定しているが、さらに避難先となる受け入れ自治体を対象にしたアンケートも実施する必要性があると判断し、受け入れ自治体の調査の経費として次年度に使用できる予算を確保した。
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