本研究は、「普遍主義に基づく最低生活保障の体系化」の政策構想の理論的基礎づけを確立し、具体的な政策提案につなげることを目的とするものであった。当初、6つの検討課題を設定して研究を開始したが、研究の進展に応じて、新たに発見された研究の萌芽を組み込みつつ検討課題を再編し、4年間にわたって研究を進めた。主な研究結果は、次の6点である。 (1)70年代以降の「普遍主義に基づく最低生活保障の体系化」をめぐる議論の低調化の主な背景要因は、①政治的要因による年金の引上げ、②学界における社会扶助重視の主張、③社会保障をめぐる関心の多様化、④普遍主義-選別主義論の社会福祉分野に限った受容であった。(2)「敬老年金」導入から各種の手当制度導入にいたる自治体の政策展開は、「革新自治体ブーム」以前の時期の「先取り福祉」行政というべき性格のものであった。(3)その歴史的背景として、戦後の自治体行政の社会福祉調査への取り組みと、専門的な調査研究の自治体行政への影響が注目される。(4)欧州等の政策動向と研究の展開、国際機関等の動きに関しては、年金の最低生活保障機能についての国際的関心の持続と、各種データベースを活用した研究の進展等が明らかになった。(5)BIに関しては、研究面では、BI導入の経済・労働市場・ジェンダー等への影響、財源調達、代替案との比較検討などについて綿密な検討が進められており、政策面では、BI導入実験など新しい動きがある。こうした点と、雇用の非正規化等の状況変化を踏まえてBIと比較することで、「普遍主義による最低生活保障のモデル」の特徴・意義が明らかになる。(6)障害・児童・高齢等の福祉分野や雇用等の政策分野との関連を踏まえて「普遍主義による最低生活保障のモデル」に即した政策展開のあり方を検討することが重要である。高齢分野については、学会誌論文にその検討結果をまとめた。
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