本研究の目的は,認知症高齢者の尊厳を支えるケア実践の構成要素を明らかにすることである。昨年度実施した3段階のデルファイ調査の結果,認知症高齢者の尊厳を支えるケア55項目のほとんどが90%以上のコンセンサスを示していた。しかし,説明や選択に関する項目,社会参加に関わる項目は,他の項目と比較してコンセンサスの度合いが低かった。また,尊厳を支えるケアの実施度では,多くの項目は「できている」という回答であったが,社会参加や終末期の アドバンス・ディレクティブといった項目は,「やや実施できていない」傾向がうかがえた。尊厳を支えるケア実践とそのコンセンサスには,関連があることが示唆された。 尊厳を支えるケアについて,さらに解析をすすめるため,デルファイ調査第1段階の自由記載内容についてテキストマイニングによる分析を行った。クラスター分析や対応分析を用いて,尊厳を支えるケアの構造を視覚的に示すことが目的である。496文,15084文字を解析した結果,もっとも出現頻度が高かった単語は, 84回の「人」であり,30回以上出現していたのは「認知症」,「本人」,「思う」,「自分」,「ケア」,「家族」であった。これらの頻出語は,「介護支援専門員・社会福祉士」,「介護福祉士」,「医師・看護師・療法士」で異なっていた。対応分析のグラフにおいても,3職種は向き合うように布置され,尊厳を支えるケアについて相違した観点を持っていることが示唆された。対応分析から得られた成分スコアをもとにクラスター化を行った結果,認知症ケアにたずさわる専門職が考える尊厳から6つのクラスターが得られた。残差分析の結果,職種間に有意な差が認められ,他の職種が重視している点を認め自分の実践に取り入れたり,お互いに補い合っていくことが重要であることが示唆された。
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