研究課題/領域番号 |
16K13443
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
斉藤 雅茂 日本福祉大学, 社会福祉学部, 准教授 (70548768)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高齢者福祉 / 社会福祉領域 / ビックデータ / プログラム評価 / 実践・行政データ |
研究実績の概要 |
平成29(2017)年度は、社会福祉領域の実践・行政・調査ビックデータの構築に向けて、当初の予定通り、以下の3点に着手した。 ・行政が保有する多時点の要介護認定・給付・賦課データに基づくプログラム評価に関しては、JAGES(日本老年学的評価研究)プロジェクトと連携して、要介護度の変化パターンとその関連要因について分析を進めた。並行して、愛知県常滑市をフィールドにして、本研究にかかる研究協定を締結し、2006年4月から2017年3月までの11年間44時点の介護給付データを収集・整備した。また、2006年に行われた要介護認定を受けていない高齢者を対象にした質問紙調査とも個票単位で結合し、社会参加や社会関係の保持によるその後の介護費用の抑制効果を試算した。 ・社会福祉実践データと要介護認定データ等を用いたプログラム評価に関しては、市役所・社会福祉協議会・地域包括支援センター協力のもとで共同研究会が組織化された。そのなかで、社会福祉協議会が進めている高齢者を対象にしたポイント制の社会参加促進プログラム(スマイルポイント事業,2016年10月時点で約2,000名が登録)に着目した。本地域では2016年10~11月にかけて要介護認定を受けていない高齢者を対象にした悉皆調査(健康とくらしの調査)を実施していたため、回答した約12,000名から本事業に参加者/非参加者をそれぞれ750名ずつ無作為抽出し、本事業開始約1年後にあたる2017年11~12月に追跡調査を実施できた。 ・大規模パネル調査データを中心したプログラム評価に関しては、2016年度にJAGESプロジェクトと連携して実施した大規模高齢者調査データと過去の調査データを結合し、2010年・2013年・2016年の3時点パネルデータを構築できた。3時点パネルデータに基づくデータ解析を進め、学会報告および論文化を順次進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・行政(介護保険)データを中心としたプログラム評価については、自治体との研究協定に基づき、一自治体(一保険者)とはいえ、11年間にわたる多時点の介護レセプトデータを収集し、かつ、そのベースラインにあたる質問紙調査データと結合することができた(n=5,377)。今後は要介護認定を受けていなかった人々がその後11年間でどのような介護サービス利用に至り、どのような人々がその後どの程度の介護費用がかかっているのかを検証する。 ・社会福祉実践データと要介護認定データ等を用いたプログラム評価に関しては、所属機関における倫理審査委員会の承認(承認番号:17-23)を得たうえで、ポイント制の社会参加促進プログラムへの参加者(介入群)と非参加者(対照群)それぞれ750名への追跡調査を実施することができた。これにより、参加者と非参加者のそれぞれについて本事業開始前と約1年後の情報が収集された。なお、回収率は85.5%と非常に高く、代表性の高いデータを収集することができた。今後はIPW(Inverse Probability Weighting)推定量等を用いて、本プログラム参加による高齢者の社会関係や健康状態にもたらす効果(中間評価)を検証していく。 ・大規模パネル調査データを中心したプログラム評価に関しては、JAGESプロジェクトと連携して、2016年度に実施した質問紙調査データと過去2回の調査を結合した数万人規模の高齢者の3時点パネルデータを構築することができた。今後も3時点パネルデータの分析を進め、研究協力者らとともに論文執筆に着手する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成30 (2018)年度には、これまでに整備してきたデータセットを踏まえて、前年度までの分析課題を継続しながら、それぞれのデータセットを用いて成果の学会発表・論文化を重点的に進める。 とくに、行政が保有する多時点の要介護認定・給付・賦課データに基づくプログラム評価に関しては、介護予防領域におけるソーシャル・インパクト・ボンドに資する知見を得るという意味でも、国内だけでなく国際的にも貴重なデータと考えられるため、今後、国内外に成果を発信していく。また、多時点の情報があることを活かした潜在成長曲線モデルや潜在クラス分析などのより高度な統計解析手法も視野に入れながら、経時的な社会経済的地位や健康状態の変化も考慮した社会福祉実践や行政サービスのプログラム評価を試みる。 なお、認定上級社会福祉士カリキュラムには「サービス評価の方法」が必須化されているが、多くの社会福祉研究は先進事例の紹介に留まり、データに基づいた評価研究の蓄積は意外に少ない。上記と並行して、3年間の取りまとめとして、行政職員や関係機関への分析結果のフィードバックとともに、より頑健で包括的なプログラム評価にむけて、社会福祉実践や行政業務の中で蓄積されるデータと大規模調査データを統合したビッグデータを構築することの意義と留意点を整理する。
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次年度使用額が生じた理由 |
メールやスカイプ会議により、当初の予定よりも打ち合わせのための出張が少なくなったため、旅費分の一部が次年度繰り越しとなった。追加調査で得られたデータのクリーニングに充てる予定である。
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