本研究の目的は、「生活保護バッシング」の実態や生成要因を実証的に明らかにすることである。近年、生活保護制度に向けられる市民のまなざしは否定的な様相を強めている。特に、2012年に人気タレントの母親による生活保護受給が発覚して以降、生活保護制度やその受給者に対する攻撃的なメディア報道が広がった。 こうした報道は、実際の政策にも少なくない影響を与えた。2013年に成立した改正生活保護法は、扶養義務者への扶養要請強化や不正受給の罰則強化など厳格な内容を含むものだった。また、同年には生活保護基準が過去に例を見ない規模で引き下げられた。 このような、生活保護制度・受給者に対する否定的な態度がどのような形で広がっているのかを解明し、バッシングを解消していくための具体的な方策を考察することが本研究の目的である。 この目的に接近するため、平成30年度は次の3つの研究を実施した。第1に、前年度に東京大学社会科学研究所付属社会調査・データアーカイブ研究センターから提供を受けた「福祉と生活に関する意識調査」(2000年)の個票データを2次分析し、生活保護を抑制すべきと考える志向に影響を与える要因を検討した。分析結果は学会発表し、論文化して投稿中である。第2に、生活保護や貧困問題に関する知識・情報を得る前と後での意識の変化を明らかにするため、全国の福祉系大学で「公的扶助論」を受講している学生を対象にしたアンケート調査を実施した。全国8大学の協力を得て、受講前で1197人、受講後で1034人から回答を得た。回収した調査票は、データ入力を終え、分析に着手している。第3に、一般市民の生活保護に対する意識を把握するためのインターネット調査を実施した。インターネット調査会社のモニター1618人から回答を得て、現在分析を進めている。
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