研究課題/領域番号 |
16K13448
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研究機関 | 兵庫大学 |
研究代表者 |
中島 龍一 兵庫大学, 生涯福祉学部, 准教授 (90553933)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 音楽療育 / 障害児 / リズム / 編曲 / ピアノ / 打楽器 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、『障害のある子ども達に活動・参加意欲を芽生えさせるための、音楽形態の構築』である。平成23年4月に「こども音楽療育士」の資格設置(一般財団法人 全国大学実務教育協会認定)がされたことを受け、音楽と福祉の分野が一体化した「音楽療育」に着目した。第1年目の研究として、多種に亘る音楽の中から効果が認められそうな曲の抽出を行い、療育上有効的な音楽形態について、国内施設において調査を行った。 調査対象施設は、兵庫県姫路市「社会福祉法人あいむ」グループ、「どんぐりの里」「児童発達支援センターたんぽぽ」「放課後等デイサービスこすもす」の3施設である。この3施設は、専属の音楽療法士が勤務しており、独自のプログラムにより、障害のある子どもの自立に向けての音楽プログラムを展開している。調査対象施設が中々見つからない中で快諾をいただき、研究をスタートすることができた。 3施設で各2回ずつの調査を行った。各施設の音楽療育プログラム内容や時間、展開方法は違ったが、音楽を通して子ども達が活動・参加意欲を持つ姿は十分に見受けられた。特に、打楽器によるリズムに反応する子ども達が多いことが観察できた。このことから、一つの曲を様々なリズムにより子ども達に提供することが、音楽療育の重要な部分であると判明した。音楽療育者が様々な打楽器を有効的に使える技術が必要であることも分かり得た。この研究のために、クラシックの名曲をピアノ用に編曲した楽譜3点と演奏CD2点、ブラスアンサンブル用に編曲した楽譜1点、計6点を発刊した。部分的に様々な形態で用いることができるようにした楽譜集である。 本研究は、福祉の分野に音楽を有効的に機能させようという考え方である。音楽を用いてその心を育てていく「音楽療育」の研究は障害のある子ども達の自立支援において、今後、大いに期待される分野であり、更なる研究が必要だと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
障害のある子ども達に活動・参加意欲を芽生えさせ、音楽を用いてその心を育てていく「音楽療育」の国内調査を、3施設において行うことができた。本研究は、福祉の分野に音楽的機能を有効的に介入させようとする考え方である。それを具体化するために、調査データをICF(国際生活機能分類)の「活動・参加」モデルに基づき、障害のある子ども達への音楽介入による効果を段階的に調査・分析するものである。自立支援に有効的な音楽形態を論理付けるところが、本研究のねらいである。 その第一段階として、国内障害児施設における調査を行い、障害のある子ども達が音楽を通して参加・活動意欲が芽生えることを確認することができた。特に、音楽の持つ特性である「リズム」に反応し、「楽しい・やってみたい・できた・嬉しい」という感情表現を見ることができた。 生きることの困難のある子ども達が音楽(特にリズム)を「楽しい」と感じ、「もっと聴きたい」「やってみたい」という意欲が芽生え、更に「できた」「嬉しい」と感じ、「一緒にリズムを叩きたい」「一緒に歌いたい」等、自ら行動を起こす気持ちが芽生える過程を目の当たりにすることができた。実際に、ドラムスティックを殆ど持つことができない子どもが、音楽を聴くことにより、ある程度の周りの援助はあるものの、一瞬、スティックを持つことができたのを観察できた時は、音楽の持つ力の大きさと強さを感じた。 また、激しいリズムの音楽では瞬時に反応して身体で表現しようとしたり、静かな音楽を聴いている時には落ち着いた様子を見せたり、聴く音楽の種類によってその音楽の特性に合わせた表現で楽しんでいる姿が多々見られた。音楽は、障害の有無に関わらず、感動や癒しを与えるものだと再確認することができた。これらの音楽療育記録を詳細にまとめることができた。 以上のことから、今年度の研究計画(国内調査)は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度(第2年目)は、ICFの考え方の環境因子の一つとして「音楽」を位置付け、前年度の国内調査によるデータを基に、ICFの「活動と参加」モデルから選択した4項目を用いて、「障害への音楽介入」の環境要因を論理付けることである。しかし、前年度の国内調査で得た結果を踏まえて、当初の研究計画最終年度で行う予定である海外施設調査を先に行い、その上で、最終的に国内と海外での音楽療育の比較とICFに基づいた論理付けを行う方が、本研究の目的遂行のために有効であることの考えに至った。これも、国内調査での成果を思った以上に出すことができたことに拠るものである。 両者(国内・国外)の調査をまとめた上で論理付ける方法が、本研究の的を得ているとの考えに至ったのである。それは、国が違っても療育対象者は、「同じ人間」であるという考え方が根底にある。アプローチの仕方や表現の違いはあるにせよ、障害児や音楽療育のひとつの目的である「活動・参加意欲から自立へ向けて」に関しては同じであると考え、先に海外調査を行うことが、より向上した成果が得られるのではないかと考えた。 以上のことから、今年度は、スェーデンの障害者施設(障害者厚生施設や障害者訓練施設を予定)での音楽療育調査を前年度の国内調査とを同じ観点から行い、音楽療育研究をさらに深化させていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行のための設備備品として、様々なジャンルに適応する幅広い楽器類購入を計画していたが、研究計画第1年目は打楽器類に絞ったため、次年度使用額が生じた。また、調査施設が近場であり、謝金の発生が無かったことにもよる。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画第1年目に購入予定であった設備備品である、持ち運び可能なポータブル鍵盤楽器、録音機器セット、著書刊行に必要な楽譜類等を購入予定である。 また、海外調査旅費(スウェーデン)・通訳費・施設調査費・謝金として使用する予定である。
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