研究実績の概要 |
人間社会において信頼が重要な役割を果たすことを主張する研究は数多い。その中で、90年代後半から信頼研究の焦点の一つとなってきたのが「信頼の解放理論」(山岸, 1998)である。山岸は、他者一般の信頼性の推定値である一般的信頼が社会のあり方と不可分であり、一般的信頼のレベルの社会差はニッチ構築の一環として解釈可能であることを、理論、実験、調査など複数の手法を用いて明らかにした。しかし、信頼研究の流れにはもう一つ、二者間において信頼関係を構築するプロセスについての研究があり、一般的信頼のようなマクロな信頼との関連は未だ明らかにされていない。本研究は、信頼研究のこれら二つの流れを統合することを試みる。 29年度は、マイクロな信頼関係形成場面において相互協力を達成することが持つ意味を検討する実験を行った。信頼の解放理論によれば、二者間で繰り返し相互作用を行う状況で相互協力が達成されても、相手に対する信頼は生まれないはずである。なぜなら、そのような状況では相互協力か相互非協力以外の帰結は存在しないため、信頼性の高低にかかわらず、どんな人でも協力するはずだからである。即ち、「安心」は「信頼」を生み出さないのである(山岸, 1998)。本研究はこの主張に挑戦するため、実験室実験を試みた。実験状況としては、先行研究において極めて高い協力率が達成されることが分かっているリアルタイム依存度選択型囚人のジレンマ(寺井・森田・山岸, 2003)を用い、最後に一回限りの同時依存度選択型囚人のジレンマゲームを加え、相手をどの程度信頼するかを測定した。その結果、安心状況で相互協力を達成した相手に対して、参加者は信頼行動を示した。しかし、参加者自身が信頼された場合にそれに応えることはなかった。
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