研究課題/領域番号 |
16K13457
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
唐沢 穣 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (90261031)
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研究分担者 |
上野 泰治 高千穂大学, 人間科学部, 准教授 (20748967)
浅井 暢子 京都文教大学, 総合社会学部, 講師 (30552492)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 国民意識 / ナショナル・アイデンティティー / イデオロギー / シミュレーション / システム正当化 |
研究実績の概要 |
日本で行われた国民意識(ナショナル・アイデンティティー)に関する社会心理学的研究の数少ない例としてあげることのできる Karasawa (2002) で見出された因子構造が、現在の日本においても観察されるかどうかを、調査研究により検討した。大学生を対象とする予備的研究において、「国家遺産へのコミットメント」「国家主義」「愛国心」国際主義」という4因子構造が再現された。また、短縮版のナショナル・アイデンティティー尺度を開発することができた。これらの結果を総合して、上述の4因子のうち第1因子はジェンダー、移民、軍事、原発などに関するイデオロギー関連態度との相関において保守的傾向を強く示したのに対し、第2因子はジェンダーと軍事、第3因子は移民問題においてのみ、それぞれ保守性を表すという差異があったと結論づけられた。 一方、実験研究では、動機過程としてシステム正当化過程に焦点を当て、これと国民意識との関連を調べた。実験参加者はオンライン・モニターとして登録された日本人一般市民であった。結果は、国家主義的態度と政治イデオロギーとの関連が実験的文脈においても見られることを示したものの、システム正当化過程との関連を調べるためには、実験操作や題材についてさらに洗練化を図る必要があることを示した。次年度への継続的課題が明らかになったと言える。 シミュレーション研究では、国民意識とイデオロギー関連態度を備えたエージェントを構築し、これが他のエージェントと接触することにより、各種政治的態度を形成する過程をシミュレートするというパラダイムを考案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初の交付申請書に記載して予定していた、調査、実験、シミュレーションの各プロジェクトを進めていくための準備的作業を、ほぼ順調に進めることができている。初年度から、ナショナル・アイデンティティー尺度の開発で重要な進捗が見られたほか、オンライン・モニターの参加によるウェブ実験も実施することに成功し、データ収集が着実に進行している。シミュレーション研究においても、複数の研究パラダイムを構築し、エージェントによる学習過程の開始に向けて着実な進捗が見られる。
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今後の研究の推進方策 |
各プロジェクトにおいて、準備段階から本格的な研究実行段階へと移る一段の進捗を目指して、進展を図る。また、相互の連携を本格化させるため、研究会・打ち合わせ検討会を頻繁に実行する。成果の得られたものから順に、その公表作業にも次年度以降は本格的に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査実験では、大学生を対象とした予備調査で予想を上まわる重要性をもった結果が得られ、予備調査を重ねることが有用という判断を下した。講義等を通じた参加者募集が功を奏し、無償で得られるデータが予想よりも多かった。 ウェブ実験では、年度当初に委託を予定していた会社よりも、はるかに安価に委託できる会社が見つかり、大幅な予算縮小を行うことができた。また、シミュレーション研究においては、試行的段階で予想以上の成果があったため、本格的なモデリングの作業に移る前に、当年度については既設の機材で作業を続行することが有効と判断し、高額な計算機を新規購入するのは29年度に行うことにした。さらに、研究打ち合わせ等を、対面のミーティングでなくWeb会議などで行うことにより、旅費経費として予定していた金額の節減が可能となった。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度における進捗とその成果を踏まえ、29年度に本格的なウェブ調査を行う予定がある。次年度使用額を合わせた調査を実施することにより、より質の高いデータを得ることができると予測される。シミュレーション研究では、本格的なモデリングの作業のために、新規の計算機購入またはスーパーコンピュータ-の使用が見込まれる。調査内容やシミュレーション内容に関する詳細な打ち合わせは、対面式の会議で行う必要があるため、29年度には研究会・打ち合わせ検討会をより頻繁に行う予定で、そのための旅費について次年度使用額が生じた。
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