近年,機能的磁気共鳴画像法により消費者を想定したヒトの脳全体を走査し,選好時の嗜好に関わる脳部位を特定,脳情報を解読する研究成果が待たれている.本研究課題「機能的磁気共鳴画像に基づく嗜好の解読と社会的要因操作」では,ヒトが見た画像に対する嗜好性を脳情報から解読する技術を確立することを目指すこととした.特に他者集団による批判的意見などの社会的要因が,特定個人の選好に与える影響を明らかにすることを目的とした. 実験では,3T-fMRIを用いてヒトの選好結果に対する他者集団の意見の提示時の社会的要因の操作によって,その後の嗜好性に変化が起こり得ることについて実証することを試みた.多種の商品画像刺激提示時の複数の被験者の全頭を走査し,得られたfMRIデータに基づき,好き嫌いを判断するなどの選好時の脳の活動部位を,統計的手法を用いて特定した. 特に男性被験者を対象として,女性集団からの意見(社会的要因)によって,男性が自分自身の選好を変えるかどうかについて確認したところ,一部の被験者において,社会的要因による選好の操作が可能であることが明らかとなった.またその際の脳の賦活部位は前頭極皮質(FPC)であることが特定できた.これよりFPCにおいては,自分自身の意見の再評価に関わっていると考えられる.しかしながら被験者数が少ないという問題が残っているため,今後の実験によってより多くの被験者データでの分析が必要となっている. 一方で脳波・視線を同時に計測可能なシステムの構築については,これを試みたものの,機器の連続故障や得られたデータのノイズの除去が困難であったため,実現しなかった.また,多次元ボクセルパターン解析については実装段階であり,研究期間内には実現していないことについても併せて報告しておきたい. 以上の成果については,本執筆現在,IEEE国際会議の論文として投稿済みである.
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