心理学・社会学・教育学・社会疫学・マーケティング科学などの数多くの研究分野において,個人差や集団差を評価するための調査・観察研究はそのほとんどにおいて,当事者自身の内観や第三者が当事者の内観や行動の意図を数値で推測する評定尺度法を用いて行われてきた。使い勝手がよくシンプルでありながらも一軸上の数値だけの人間の認知行動を推し量るのみに頼る質問紙法をデザインするには多くの留意点があり,そのいずれもが重要な事項である。しかしながら,それらに十分に配慮しながら調査を構成したとしても,被調査者側に内在する回答傾向の影響に対して明示的に向き合わなければ,より的確な結果は得ることはできないので,本研究計画はこの点を最重要課題としている。本研究計画の最終年度である平成30年度は,昨年度からの課題であったウェブ調査を用いて取得した縦断データおよびOECD PISA公開個票データに基づいた分析をさらに推進し,それらの成果報告を論文誌2編,学会発表5件において行った。たとえば,研究代表者の高橋は,論文分担執筆において評定が比較的困難とされる創造性の個人差についてまとめ,分担研究者である岡田は大学院生と共同しつつ,評定尺度法に対して係留寸描を用いた統計数理モデルの検証および複数の実データ分析に対する応用研究を行い,それらを国際学会において口頭報告した。本研究計画全体を通じては,まだ新たに投稿中の原稿が残っているため,それらを出来る限り十分な形で研究業績として報告することの出来るまで研究活動を完遂することに努める。また,評定尺度法の回答バイアス除去のための方法論およびそのためのRパッケージの実装も引き続き公開可能な状態に到達できるまで研究を継続する。
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