本研究は、熟達した成人の分数の心的表象がどのような構造をしているのかを明らかにする目的で行われる。近年、分数が数概念の発達や数学的理解の解明に中心的役割を果たす対象であることが指摘されている。しかしそもそも分数が心的にどのように表象されているかに関しては、国内はもとより海外でも検討が進められていない。 そこで本研究では、刺激の心的表象の構造を強く反映する記憶課題の一つである直後系列再生を、分数を刺激として実施することで分数の表象特質を捉え、分数の大小判断や計算課題の成績との関連性についての検討を通して分数の心的表象の構造を解明する。 前年度に2つの実験を行ったが、実験1では計算課題との相関が得られたのに対し、実験2では相関が得られず、一貫しない結果となった。そこで、H29年度は3つ目の実験を行った。実験では、本研究で新しく用いた分数の量的感覚を測定するための(1)直後系列再生課題、先行研究で一般的にお用いられて来た分数の量的感覚を測定するための(2)分数の大小判断課題と(3)分数の数直線推定課題、そして、計算スキルを測定するための(4)分数計算課題の4つの課題を実施し、課題間の関連性を検討した。実験の結果、直後系列再生課題では、分数の量的感覚の個人差を測定することができた。この結果は、実験1、2とも一致しており、本研究で用いた直後系列再生課題が分数の量的感覚を評価する課題として有効であることを示している。一方で、直後系列再生課題の成績は、従来から用いられて来た課題である大小判断課題と数直線推定課題の成績とは相関を示さなかった。この結果は、日本人大学生のような分数に習熟した大人では、分数の処理が複雑である可能性を示しており、今後さらに検討が必要であることを示している。
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