研究課題/領域番号 |
16K13475
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大津 嘉代子 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, その他(招聘研究員) (50737757)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 逐次教示の効果確認 / 学習効果の定着確認 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、大学生を対象に、検索力の育成過程を認知心理学的に検証しながら、学習方法を提案することである。学習方法の基本は、一般検索エンジンによる学習に必要な情報検索に習熟していない学生の認知的負担を低減しながらより効率的に行うことにある。この目的の下、平成28年度は、情報検索過程全般のうち検索結果一覧を得てからの閲覧行動に観察対象を絞り、閲覧時に逐次的に教示を行うことが、その後の閲覧行動に変化を生む効果的な学習につながることを確認する複数の実験を行った。代表的な成果は、以下の二点が確認できたことである。第一点は、一般検索エンジンで学習情報を探す際に留意すべき「サイトの属性予測・確認」、「掲載情報の予測・確認」について、閲覧作業の流れの中で遂次的に教示を与えた場合と、閲覧前に同じ教示を一括して読ませた場合の学習効果の違いを明らかにしたことである。具体的には、逐次的に教示を与えた場合、一括して読ませたよりも、後の閲覧においてより正確にサイト属性を予測できるようになった。第二点は、同様の遂次提示による学習の方が、後の閲覧時、サイトを開く前に検索結果一覧の情報(サイトタイトル、URL、スニペット等)を長い時間をかけて読むと確認できたことである。一括提示では、このような閲覧行動の変化は確認されなかった。検索行動において、要因と学習効果の関係を推察できる先行研究が少ないため、この結果を得たことは大いに意義がある。 昨年度行った実験では、科研費予算で開発した模擬検索用アプリケーションを使用した。このアプリケーションにより、閲覧行動の細かいタイミング(サイトクリック時、サイトを閉じる時)を捉えて教示を提示できるようになった。先行研究では、閲覧作業の制御とともに各操作のデータを取る例が極めて少なく、このアプリケーション開発自体も研究成果だと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
挑戦的萌芽研究としての一年目である28年度の実施項目は、「検索学習プロセスの諸要因検討と仮説策定」と「実験用アプリケーション開発」であった。その前提において、昨年度は概ね計画通りに実施できたと言える。検索学習プロセスの諸要因については、可能であれば検索行動全般(キーワード入力から情報選択までの全過程)を対象にしたかったが、実施可能な実験回数を考慮し、観察対象を閲覧過程に絞り、逐次提示の効果を確実に検証することに目的を絞った。仮説としては、閲覧時に開いたサイト、ページの掲載内容に意識的に注目し、サイト属性や掲載情報を予測・検証することで閲覧経験が知識になり、以降の閲覧行動が変容すると考えた。研究成果で述べた通り、情報検索全体の実施は実験手続きとして非常に複雑かつ煩雑であり、多くの余剰変数を生んでしまう。そのデメリットをできる限り回避するため、閲覧行動に絞って実験を行ったのは妥当であったと考えている。その成果として、昨年11月、本年1月に複数の実験を実施でき、検索行動の一部過程においてであるが、計画通りに仮説策定と検証が行えた。 アプリケーション開発に関しても、観察過程を絞ったことで、研究協力者であるソフト開発会社の担当者と効率的に作業が進められ、複数の実験用アプリケーション開発がスムーズに進んだ。アプリケーションについては、当初の計画では実験用のみ開発する予定であったが、今後の使い勝手を考えて、昨年度中にアプリケーション作成用システム開発に着手した。この理由は今後の研究の推進方策の中で後述するが、限られた研究予算の中で当初計画していた今年度の目標に近づくための工夫である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では、平成29年度の目標は「学習用アプリケーション開発」と「検索行動変容基礎過程分析」であった。学習用アプリケーションは、実験用アプリケーションをベースとし、一般の検索エンジンと同一モニタで同期させ、検索テーマと課題、教示、フィードバックを行おこなえるもので、検索行動全般を制御し行動データを取りつつ、最終的には学習現場に導入可能なものを開発する計画であった。結論から言うと、この開発は不可能となった。理由は、科研費に応募した際の希望予算から研究費が減額されたことによる。昨年度の実験用アプリケーション開発に関しても、共同開発という位置づけで低予算で行ってもらっており、これ以上の作業は難しくなった。そのかわり、実験用アプリケーションを高い自由度で編集できるシステムを共同開発し提供して頂いた(29年度4月納品済)。これを用いて、本年度前半は昨年度行ったものとは別のタイプの検索課題を用いてさらなる仮説検証を行う。本年度後半に関しては、検索過程の前半(キーワード入力から検索結果一覧を得るまで)も扱い、逐次教示提供による閲覧行動の変化が、前半過程にも波及するか否か確認する予定である。前述したように、この際一般検索エンジンの操作データは直接得られないが、画面録画、ログ取得等の代替え方法を用いて記録していく予定である。 検索行動の変容過程分析に関しては、本年度実施する実験を通じて予定通り行う予定である。昨年度に遂次提示の効果が確認されたので、本年度は提示する教示項目や内容を変化させ、最も効率の高い条件を策定していく学習実験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は5万円以下であり、全体としては所要額に近い予算を使用した。次年度に使用する予算が生じた理由は、実験用のノートパソコンを予定より低価格で購入できたことである。
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次年度使用額の使用計画 |
この予算を29年度分の予算と合わせ、有効に使用していく。
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