Bowlby(1969)が提唱したアタッチメントは乳児がある特定の対象に形成する心の絆と定義される。乳児期に形成されたアタッチメントは加齢と伴に内的表象モデル(IWM)に統合され,自己概念や対人関係の基礎になる。 乳児期アタッチメントはAinsworthら(1978)が開発したストレンジ状況法(SSP)によって測定され,安全群(B),両面価値群(C),回避群(A),非構成的/非志向的群(D/D)に分類され,アタッチメントは母親の一貫した敏感性に影響を受けるとされた。その後Mainら(1985)による成人アタッチメント面接(AAI),そして複数の研究者によって開発された質問紙によって成人期アタッチメントであるIWMの測定が可能となった。また,近年の分子生物学の急速な進歩により,DNA多型・メチル化の解析が可能となり,遺伝子がアタッチメント形成に及ぼす影響に関する研究が始まった。 本研究では,協力者が1歳の時点で測定した乳児期アタッチメントと成人期IWMとの連続性に与える要因を検討することを目的とする。平成28年度内にIWMに関するアンケート調査,心拍・脳波測定を完了済みである。IWMデータは自己記入方式による複数のアンケートにて得た。平成29年度内にDNA多型・メチル化の解析を終了した。全てのデータには英数字8ケタの符号を付して匿名化し,対応表は個人情報管理者が管理している。個人情報の管理を徹底し,かつ研究施行上の倫理的問題は発生していない。 乳児期アタッチメントデータを因子分析して因子得点化し,成人期IWM,DNA多型との関連性を検討した。その結果,乳児期アタッチメント安全性(secure)と成人期アタッチメントスタイルの安全性(secure)との関連性においてセロトニン輸送体関連遺伝子(5-HTTLPR)の多型(ss型とll型)が異なる影響を与えていることが判明した。
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