研究課題/領域番号 |
16K13481
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山中 克夫 筑波大学, 人間系, 准教授 (50282314)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 認知症 / QOL / グループホーム / 家庭らしさ / 本人 |
研究実績の概要 |
厚生労働省は、2012年に在宅医療・介護推進プロジェクトを発足した。それ以来、我が国では在宅介護が推進されている。しかし、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)や施設介護のサービスを受け、自宅以外の場所で暮らす人々の生活の向上も見過ごしてはならない。実際、グループホームはもちろん、特別養護老人ホームにおいても、設備及び運営に関する基準では、家庭的な環境のもとで生活できるように努めることが記載されている。こうした基準に沿い、介護現場は内装を家庭らしくするなどの努力を行っている。海外では、ケアホームのQuality of Life (QOL) 向上に関するシステマティックレビューがすでに行われている。そこでは、入居者のQOL向上の重要な要素として、家庭らしい雰囲気づくりが挙げられている。そこで本研究では、実際にグループホームに入居している認知症高齢者本人が、生活上でどのような点に「家庭らしさ」を感じているのか質的調査を行い、その経過報告を学会発表した。調査対象者は、Clinical Dementia Ratingが0.5から2で、認知症がごく軽度から中等度の9名であった。認知症の人では、日によって症状に変動が見られることを考慮し、各対象者に対して同じ内容の質問を、面接日を変えて3回行った。分析方法は逐語録を作成した後、主題分析を用いて回答の分類等を行い、サブカテゴリー、カテゴリーを作成した。結果では、「家庭らしいと感じるところ」に関して、『日常生活の行為や活動の満足』、『人間関係が良い』『居心地の良さ』に関する回答が得られ、人との関わりやふれあいに関する回答が多くみられた。今後、さらにデータを追加し、最終的な報告を行うつもりである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グループホームに入居する認知症高齢者本人が感じる「家庭らしさ」に関する研究は予定通り進んでいる。また本研究では、認知症のある人と暮らす家族介護者のQOLに関して、項目抽出や尺度開発を行う前に、基礎研究として、彼らの介護体験を詳しくインタビュー調査する。これは、介護者の幸福感やQOLが、本人が認知症を発症してからの経過や、遭遇する介護上の困難によって異なると考えられるためである。そして、そうした困難に対し、支えや喜びを感じる点こそが幸福感やQOLの中心的要素と考えている。この点に関しては、他機関で得られたデータ(非構造化面接に基づくもの)を借用し分析を行っているところである。また、より構造化された手順を用いて新たに調査研究を行う。この研究に関しては、現在研究倫理の承認を得て調査を開始したところである。一方、認知症の本人に関しても、同様に他機関で得られたデータを借用し解析を行っている。さらに家族介護者と同じく、より構造化された手順で新たな調査研究を行う。この点については、現在研究倫理の承諾を得たところである。より客観的なデータに基づくQOLの測定法の開発に関しては、表情分析の機器を用いた方法について予備研究を開始したところである。行動、活動上の変化をもとにQOL評価を行う方法に関しては、他プロジェクトで特許申請中の観察記録装置を介護現場用に改良しているところである。しかし、日本人特有のミニマムな幸福感をもとにしたQOL尺度の開発と、重度の認知症患者に対するQOL尺度の妥当性・信頼性検証のためのサンプリングが若干遅れている。この点に関しては、今後早急に進めていきたいと思っている。
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今後の研究の推進方策 |
グループホームに入居する認知症高齢者本人が感じる「家庭らしさ」に関する研究は引き続きサンプリングを行い、質的な分析のみならず、多変量解析により特徴を明らかにする。次に、認知症のある人と暮らす家族介護者のQOLに関しては、借用しているデータ解析を終える。また、半構造化面接による家族介護者の介護体験に関する新たな調査については、サンプリングを完了させ、質的および量的な解析を行う。認知症のある人、本人のインタビュー調査に関しては、少数サンプリングを行い、質的な解析を行う。客観的なデータをもとにしたQOLの測定法開発に関しては、表情分析を用いた方法の有効性について検討する。加えて、他プロジェクトで特許申請中のツールを改良し、簡便な観察ツール予備版を開発し、介護現場での実行可能性を明らかにする。一方、ミニマムな幸福感をもとにしたQOL尺度の開発については、項目抽出のための自由回答法による調査を行う。さらに可能な限り重度の認知症のある人に対し、QOL尺度の妥当性・信頼性検証のためのサンプリングを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
簡便な観察ツール予備版を開発委託費用と表情評価機器のリース料が合わせて30万円ほどかかることから本年度経費の効率化を図り、次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した30万円は、簡便な観察ツール予備版を開発するための委託費用と表情評価機器のリース料に使用する。
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