研究課題/領域番号 |
16K13482
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
宇野 かおり (宇野カオリ) 筑波大学, 人間系, 研究員 (50769601)
|
研究分担者 |
宇佐美 慧 東京大学, 高大接続研究開発センター, 准教授 (20735394)
沢宮 容子 筑波大学, 人間系, 教授 (60310215)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ストレングス(強み) / レジリエンス / 心理学的介入 / 臨床心理学 / ポジティブ心理学 |
研究実績の概要 |
本研究は、ポジティブ心理学において、人間のポジティブな特性や気質の一部と定義される「キャラクター・ストレングス」(character strengths:以下CS。研究代表者による訳で「徳性の強み」)を主題とする。具体的には、CSを構成する心理的・道徳的要素としてPeterson & Seligman (2004)が解明した24の強みに注目し、それらが状況に応じて発現し、集合的乃至個人的変容を遂げるとの先行研究に対する検証と並行して、CSの実践的活用による心理学的レジリエンスの強化モデルを提唱することを目的とする。 前年度に引き続き、平成29年度の本研究における課題は主に、1、大規模な危機的状況下でのCSの集合的変容に関する調査に必要なデータ解析、2、日常的な危機的状況下でのCSの個人的変容に関する調査に必要なデータ収集及び解析、そして、3、平常時におけるCSの個人的変容に関する調査に有用と思われる、CSの活性化を目的とする介入効果の検証、の3点であった。 本年度の研究成果としては、1については、2011年3月に発生した東日本大震災・福島原発事故を経験した前後(1ヶ月間と2ヶ月間でそれぞれ検証)で、CSを測定する質問紙であるVIA-IS日本語版に当時オンライン回答した1,830人分のデータを統計的に検定した結果、CSの集合的変容として有意差が認められた。2については、調査対象を当初の研究実施計画から変更し、かつ、現在、VIA-IS質問紙の著作権元の主導下、McGrathらと共同で開発中の新たなVIA-IS日本語版を使用する方針を取り入れたため、来年度に持ち越しの課題となった。3についても同様に、当初の計画から調査対象を変更し、平成29年7月から11月の約5ヶ月間、計627名の社会人を対象に実施した。当該データについては現在解析中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、上記「研究実績の概要」で記載したとおり、当該年度の課題としていた3つの研究のうち2つに確実な進捗が見られ、それに伴い次年度(平成30年度)の課題も明確とすることができた。当初の研究実施計画とは異なる調査対象については、本研究においては最終的にはマイナス要因とはならず、むしろプラスに働くと判断されたため、変更を積極的に受け入れた。これらの進捗状況に鑑みて、「おおむね順調に進んでいる」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
上記「研究実績の概要」及び「現在までの進捗状況」で記載したとおり、本研究の過去2年間における進捗状況はおおむね順調である。特に、大規模な危機的状況下でのCSの集合的変容に関する検定(研究1)が完了している今、最終年度である平成30年度はその検定に基づいての論文の執筆作業が重要な課題として控えている。また、前年度の平成28年度に導入した、CSの24項目から数項目を抽出した形の質問紙の日本語版開発に必要なデータも収集済みであり、現在解析中であるが、これも検定が完了次第、来年度中に論文化する予定である。 ポジティブ心理学は心理学の一領域としての歴史がまだ浅いことと、一学問領域の方向性に責任を担うべきリーダーシップに問題を抱えていることから、あらゆる面で変動を繰り返している分野である。頻発する理論の反駁や、介入方法の修正などもその一例であり、本研究に関係するCS測定のためのVIA-IS質問紙の改訂への動きもそうした流れの中にあることは否めない。しかし本研究では、あと1年で最終年度を迎えるという時間の制約を見据えながらも、敢えて最新の改訂版質問紙を採択することとした。 ポジティブ心理学における絶えざる変動とはしかし、ある側面では、常に新たな発展の息吹が吹き込まれることを意味する。当初の研究計画から調査対象を変更したのも、本研究の主題に対する社会的関心の高まりに応じて新たな研究協力者らを得たことによる。また、本研究の最終課題(研究4)である、心理学的レジリエンスの強化に働きかけるCSの特定についても、Martinez-Marti & Ruchの研究(2017)により新たな先行研究が加わることとなった。同論文の著者であるRuchと研究代表者とは以前から意見交換を行っており、本研究に新たな検証課題が加わったことを歓迎したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 当初購入を予定していた物品の年度毎の必要性に応じて、繰り越し手続きを希望したため。研究計画(変更点含む)に従い、本年度(平成29年度)の研究成果ならびに課題を次年度(平成30年度)へと繋げるべく、次年度分の研究の遂行のための経費として、本年度と同様の旅費(主に国内外での学会発表)や人件費の支出を見込む必要があるため。 (使用計画) 上記の金額については、次年度(平成30年度)の研究遂行に関する必要経費として、主に旅費(国内外での学会発表)や人件費に対する使用を予定している。
|