研究課題/領域番号 |
16K13486
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岩永 誠 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (40203393)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 過剰適応 / ストレス反応 / バーンアウト / 投影法 / タイプA行動 / 防衛的悲観主義 / 完全主義 / 対人関係 |
研究実績の概要 |
過剰適応とは,社会・文化的環境に対する外的適応が過度に行われ,その結果として自己の内的安定性を維持する内的適応との不均衡が生じた状態を指す。社会や他者の要求や期待に応えるべく過剰に努力することから社会的に高く評価される。社会的には望ましい状況ではあるが,過剰な努力が過剰労働に結びつき,強いストレスを喚起することになるため,個人にとっては不適応となる。過剰適応については,これまで過剰適応の特徴の解明が検討の中心であり,ストレスに関連する個人特性との関係についての検討は不十分である。また,過剰適応の測定において社会的望ましさにより回答が歪む可能性がある。それを排除するために,投影法的手法を用いて過剰適応を測定する尺度の開発を行い,ストレスと関連する個人要因との関連を検討することを目的とする。 平成28年度では,投影法的手法を用いた過剰適応尺度の開発及びストレス関連の個人特性と過剰適応との関連を検討することを目的とした。研究1として,投影法的手法を用いて過剰適応の程度を測定できる尺度(投影法的過剰適応尺度)の作成を行った。投影法的過剰適応尺度は,絵画を用いた場面想定法により反応を選択させるもので,10の対人関係トラブル場面に対して,怒り,許し・配慮,困惑・動揺,解決思考の4つの反応カテゴリーから本音としての反応と建て前としての反応を選択させるものである。従来から用いられている過剰適応傾向尺度との関連を検討した。研究2として,ストレスに関連する個人特性が過剰適応とどのような関連を示すのかを検討する。過剰適応は成人用過剰適応尺度を用いて測定し,個人特性としてタイプA行動傾向や防衛的悲観主義,自尊心,完全主義を測定し,抑うつやバーンアウトとの関連を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成28年度は,予定していた2つの研究のうち,研究1を終了し,研究2は調査の準備が完了したのみであり,最終的な調査の実施には至っていない。研究2については,調査実施に向けて使用する尺度の精査は行い,ネット調査の実施に向けて業者との打ち合わせに入っている。 研究1では,過剰適応を投影法的観点から測定する尺度の開発を行った。過剰適応を起こしやすい人は他者からの評価を気にしやすく,社会的望ましさの影響を受けやすい。そのため,PFスタディに従い,対人関係トラブル場面の絵を提示し,そこでの対応を選択させる方法を採用した。回答には,その状況において,「相手に対してなんと言うか」(建前)と「心の中でどのようなことを思っているか」(本音)を尋ねた。対人関係トラブル場面は,同性の友人に対して物品や金銭の貸し借りや借りたものの破損といった10の状況を設定した。回答は,4つの反応カテゴリー(怒り,許し・配慮,困惑・動揺,解決思考)について2つの反応を準備し,合計8つの選択肢から本音と建前を別々に選択させた。また,対象によって過剰適応の程度が異なると考えられることから,相手との親密度の操作を行い,親友と挨拶をする程度の同級生の2条件を設定して,回答を求めた。分析対象は,社会的望ましさの高いもの(5点中4点以上)を除いた97名の大学生であった(男性59名,女性38名)。分析の結果,(1)本音で怒り反応が高く,親友に対しては抑制されていること,(2)許し・配慮は建前において認められやすく,本音においては親友に対して認められやすいこと,(3)解決思考は親友において認められやすく,友人において建前で認められやすいこと,(4)困惑・動揺は本音で認められやすいことがわかった。以上の結果から,本音と建前により反応に違いがあり,他者との関係性によっても異なることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,28年度に実施できなかった調査を実施する。現在質問項目の精査は終了し,調査会社との最終打ち合わせの段階となっていることから,すぐにでも実施できる状況で, 4月中には実施する。その後研究3と4を実施する予定である。 研究3として,今回の調査で測定することのできなかった個人特性及び対処方略の採用についても検討する調査を実施する。具体的には,達成動機や承認獲得動機,失敗回避動機といった動機づけが過剰適応とどのような関係にあるのか,過剰適応者の採用しやすい対処方略や,過剰努力に対する自己正当化について検討する。研究2と同様,ウェブによる調査を予定している。 研究4として,過剰適応者が実際に過度の努力をして高い生産性を示すのかを検討する。過剰適応は内的適応が阻害されストレス反応を示すとされているものの,自律神経系活動を指標としたストレス反応を測定した研究は少ない。そこで,他者から評価される課題状況を設定して,過剰適応と課題パフォーマンスとの関連,自律神経系活動への影響,およびそれらに関連する個人要因の解明に関する検討を行う。他者から評価される状況を設定し,困難性の高い精神作業(暗算課題等の認知課題)を実施する。また,過剰努力を喚起させやすいよう,他者からの承認欲求を高める操作を行う。測定指標として,主観的側面では主観的ストレス感,満足感,他者からの肯定的評価感を,行動的側面では課題パフォーマンスを,生理的側面では心拍数,血圧,抹消血流量,呼吸数を用いる。過剰適応とこれらのストレス反応との関係,動機づけの影響について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度中に研究2として調査を実施する予定であったが,使用する尺度の選定及びネット調査を実施する会社の選定に時間がかかり,28年度中に実施することができなくなった。特に,扱う個人特性が多くなったために,尺度から一部の項目を抜粋して使用することとなり,その吟味に時間がかかったために,遅れることとなった。使用する尺度項目がまた,所属期間における業務が多忙になったことも,遅れを引き起こすことにつながった。平成29年3月には調査項目も確定し,業者との間で調査画面等の確認を行い,4月24日から調査を実施した。回答予定数に達するまで調査を実施する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
現在研究2の調査を実施している。これで調査費として予定していた80万円を使用する。さらに,秋をめどに,研究3の調査を計画している。これも研究2と同様に,80万円の経費がかかるものと試算している。残りの約30万円については学会発表用の旅費,及び実験実施に伴う人件費や謝金として使用する。
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