平成28度の研究では、総合病院勤務の看護師を対象に医療現場における外傷的体験の実態や仕事などへの影響を調査した。その結果、外傷的体験をした人が半数以上に上ることや、そうした体験が現在の仕事や人間関係に悪影響を及ぼしていることなどが判明した。 そこで平成29年度は、外傷的体験後に見られる対処行動や援助要請を調べるとともに、 外傷的体験がバーンアウトや離職希望、心的外傷性ストレス症状に及ぼす影響を調査した。その結果、体験後にセルフケアをしている人は多くはなかったが、体験者の多くは同僚や上司に相談を求めていた。また、外傷的体験がバーンアウトや離職希望に強く影響を与えており、外傷性ストレス症状の強い人(ハイリスク者)が1/4以上存在した。 次に、別の総合病院の若手看護師を対象に調査を行い、外傷的体験をした場合、周囲に援助を求めることで不安やストレスが緩和されるか否かを調べた。その結果、同僚や上司に相談することで、達成感の低下が軽減され、不安が緩和されていた。しかし、情緒的消耗感や抑うつの軽減は見られなかった。 さらに、バーンアウト予防と回復のための支援介入の方法を探るため、若手・中堅看護師のレジリエンス(精神的回復力)と周囲のサポートがバーンアウトや抑うつなどに及ぼす影響を調べた。その結果、レジリエンスの高い人は低い人よりバーンアウトや抑うつ性が有意に低く、心的外傷性ストレス症状も少なかった。看護師の有するレジリエンスは自身のメンタルヘルス不調の予防と回復に寄与する重要な要因であることがわかった。また、体験後の上司のサポートがメンタルへルスに大きく影響していた。こうした結果をもとに、レジリエンス、とりわけ獲得的レジリエンスを高めるような周囲の働きかけと教育研修などの有用性や、気軽に相談・助言を受けられる職場環境づくりの重要性を指摘した。
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