研究課題/領域番号 |
16K13491
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研究機関 | 聖徳大学 |
研究代表者 |
菅沼 憲治 聖徳大学, 心理・福祉学部, 教授 (10118713)
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研究分担者 |
吉澤 英里 環太平洋大学, 次世代教育学部, 講師 (80616029)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | セルフ・コンパッション / 金魚鉢方式のロールプレイング / 惨事ストレス / 消防職員 |
研究実績の概要 |
消防職員40名に対して、東京消防庁方式の支援ディブリーファー研修を行った。参加者40名の内2名は実施前のデータが収集出来なかったため、38名(男性35名、女性3名)のデータを分析対象とした。 研究(1)では、参加者は、自然災害での救助を行っている写真4枚を提示され、その1枚を選択した。その写真の状況で、救助を行うという状況をイメージし、4つの時間軸で体験を報告し、そこで生じた記憶を想起して文章にまとめることを自由記述で求めた。この4段階は、①出勤要請があり現場に向かう車内、②養成現場に到着し、活動中、③任務が完了して帰還する車内、④職場に戻り上司に報告する状況、であった。尚、回答欄にはPadesky & Mooney (1990)の認知モデルに基づき、身体、感情、思考、行動の各項目に対して反応が求められるように設定されていた。この質問紙は、金魚鉢方式のロールプレイングの前後で実施し、記述内容の変化を分析・検討した。分析にはKH Coderを用いた。 自由記述の内容は、移動中から活動中にかけてと、活動後(帰署中から報告時)に分けて比較検討した。顕著な反応の違いとして、思考や感情においてトレーニング後にネガティブな記述がよく表現されるようになっていた。 研究(2)は、計量的な分析を行った。先程の質問紙に加えたセルフ・コンパッション尺度(有光2014)を用い、各項目に対して5件法による回答を求めた。手続きは、先程と同様にトレーニングプログラムの実施前後でこの尺度への記入を求めた。 結果、トレーニングによってセルフ・コンパッションが高まることが示唆された。しかし、一方で与えられた役割によって、下位尺度である共通の人間性の特性にばらつきが見られた。そこで、今後はトレーニング・プログラムを工夫し、均一な効果が期待できるように改善が必要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
その理由としては、平成29年度において、新たに心理的ボードゲーム2種類を組み入れた惨事ストレスのトレーニング・プログラムを開発し、実践した。 ボードゲームの第1種類としてWilde(1990)により開発された「Let's Get Rational」(LGR)を用いた。このボードゲームは、アルバート・エリスにより創始されたRatinal Emotive Behavior Therapyの理論に基づき実践するものである。特徴は、ゲームを通して得点を稼ぐ、または、勝者・敗者を生み出すものでもなく、また、ゴールも特に設けられていない点である。別の表現をすれば、参加者全員が勝者となる"Win-Win"式なゲームである。"Win-Win"とは、相互に大事にされたと実感する人間関係を意味する。このLGRは、楽しくプレイできるものであり、更に、参加者の自己肯定感が高まる。また、過剰な評価に振り回されず、自己受容をする姿勢を学ぶ物でもある。 次に用いたのは、東北大学で開発された「減災アクションカードゲーム」と称される心理的ボードゲームである。例えば、地震が発生、津波警報が出たと教示がある。目の前には、避難方法を示す27枚の絵札が並ぶ。インストラクターが問題文を読み上げ、3秒以内に絵札を選択し、選んだ理由を端的に答える。正解は、一つだけでなく、とっさの判断と状況の説明が求められる。救助専門職である消防職員にとって、とっさに判断し、何を行動として選ぶのか、という集中力と状況判断力をトレーニングする目的である。災害発生時の自分がとるべき行動を日頃から具体的に考えておくことの大切さを学ぶ狙いを持っている。 以上の2つの心理的ボードゲームを組み合わせ、新たなストレスの低減に寄与するプログラムを実践した。このデータ解析は、次年度に行うように計画している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで行ってきた金魚鉢方式を用いたトレーニング・プログラムと心理的ボードゲームによる2つのプログラムを統合し、ストレス低減に与える効果を実証的に検証する。 指標としては、セルフ・コンパッション、レジリエンス、及び、アサーションの変数を測定し、解析する。加えて、環境要因である消防組織の現状について、調査研究を行う。 平成29年9月には、公認心理師法が施行された。この法律は、医療、福祉、産業、教育、司法等、5領域に渡る汎用的な心理支援専門職を設置するように求める法律である。従って、これまで法的盲点であった、消防職員のストレスに基づく健康障害を起こす職員に対しての支援を消防行政としてどのように施策としてまとめているかについて、実態を明らかにしたい。このように、ソフト面であるトレーニング・プログラムの改善・工夫に加えて、ハード面である心理支援の行政的推進状況についても調査研究等により検証をしようと考える。この2つの側面を統合することによって、これまで声をあげられなかった消防職員の要支援者に対して、組織的に支援体制が構築できると考えるからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査対象者を増やした大規模なプログラムの実施を考えてICレコーダー等を購入する計画を立てていた。ところが、調査対象者や実施場所の確保等の下準備に相当時間がかかり、この計画に至らなかったため費用が残ってしまった。次年度に行う大規模プログラム実施のために充当する。
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