研究課題/領域番号 |
16K13492
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鈴木 伸一 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (00326414)
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研究分担者 |
伊藤 大輔 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 准教授 (20631089)
小関 俊祐 桜美林大学, 心理・教育学系, 講師 (30583174)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 震災被災者支援 / トラウマ性障害 / 統合的支援 |
研究実績の概要 |
本研究は,家庭内暴力,虐待,ハラスメント,いじめなどの従来のトラウマの概念ではとらえることができない侵襲性エピソードの内容とその心身への影響について検討を行い,新たなトラウマ定義の妥当性について考察する(研究1)。次に,新たなトラウマ定義を用いて東日本大震災の被災者を中心とした精神衛生上の問題を捉え直し,その状態像を明らかにする(研究2)。最後に,状態像を踏まえた教育・心理・就労の統合的支援プログラムを開発し,トラウマ性障害の急性期以降の統合的な支援の在り方について量的・質的観点から検討し,考察する(研究3)ことを目的としている。 平成29年度は,東日本大震災の被災者を中心とした精神衛生上の問題を捉え直し,その状態像を明らかにした。まず,東日本大震災被災地域の児童生徒を対象に調査研究を実施した結果,震災後の中長期的影響として,抑うつに起因した問題が顕在化する危険性があることが示唆され(小関ら, 2017),被災者の抑うつ症状は生活支障度を阻害する大きな要因の1つであることが示された(仲座ら, 2017)。また,自閉症スペクトラム症の特徴である注意の切り替えやコミュニケーションの問題を有することが抑うつ症状やPTSD症状を悪化させる可能性が示された(伊藤ら, 2017)。さらに,被災地域学校の教職員に対するインタビュー,調査結果のフィードバックに基づく意見交換会を開催し,急性期以降の要支援者の諸特徴について整理した。以上のような複数の調査研究や取り組みによって,被災後の中長期的支援を行っていく上で,被災者の精神衛生上の問題と状態像について知見を得ることができたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,東日本大震災被災地域の児童生徒を対象として,生活の健全化と安定化が困難になるリスクファクターとしてうつ病性障害および自閉スペクトラム症を考慮したうえで実態調査を行うことができた。さらに,被災地域学校の教職員に対するインタビュー,調査結果のフィードバックに基づく意見交換会を開催し,急性期以降の要支援者の諸特徴について整理することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,研究3として,急性期以降の要支援者の諸特徴に基づいた統合的支援のあり方の提案することを目標とする。まず,被災後の中長期的観点から,被災者の状態を踏まえて健康増進効果の期待される心理プログラムをオープントライアルで実施し,質問紙を用いた量的検証と,主観的報告に基づいた質的検証を行う。さらに,被災地域学校の教職員に対するインタビューや意見交換会を開催し,心理的側面の改善だけではなく,学校や家庭内への適応や就労に関する将来展望を持つという中長期的視点に立脚した新たな心理・教育・就労の統合的な支援について検討する。 なお,本研究については,主に被災地地域で実施されるが,すでに調査および介入協力校の選定は済んでおり,学校長からの内諾を得ている。さらに引き続き,研究協力者として大谷哲弘氏(臨床心理士)の協力を得て,リスク・マネージメントを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査実施の効率化が図られ、当初予定していた出張が次年度に繰り越された。
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