研究課題/領域番号 |
16K13493
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研究機関 | 静岡英和学院大学 |
研究代表者 |
波多野 純 静岡英和学院大学, 人間社会学部, 教授 (10311953)
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研究分担者 |
小堀 彩子 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (00432188)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 擬人化 / 比喩 / 外在化 / 心理療法 / カウンセリング |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究では,個人の心理的問題や特徴を外在化する表現を大学生から収集し,そこで表現された問題や特徴(ターゲット)および外在化に用いられた擬人的表現の素材(ソース)を,質的に分析することを目的に調査を行った。 大学生29名(男性15名)を対象に,比喩生成課題とMorgan(2000)の「外在化する会話」を参考にして,自分の心理的特性を擬人的に表現させる課題を実施した。「あなたの心の中に,人の姿をした『良い存在』や『困った存在』がいて,あなたの良い行動や困った行動は,その存在のせいであると想像して下さい。そのイメージをもとに, (A)あなたの中にどんな人(存在)がいて,(B) その人があなたにどんな行動をさせるのか,(C)それは特にどんな時なのかを,下の例のような文章で表現して下さい。」と教示した。2つの例文の後に4つの文章を作成し,上の(A)~(C)のように分けて記述するよう求めた。また,記述課題の後,課題が難しいと感じたかどうかを6件法で評定を求めた。調査は授業時間中に一斉に実施した。所要時間は10分程度であった。 調査の結果,否定的な行動や特性よりも肯定的な行動を外在化する頻度が高く,外在化の課題がやや難しいと評定されていた。得られた資料から,個人の内面的事象が全般的に外在化しやすい対象なのではなく,扱いにくい対象や事象も存在することが示唆された。また,大学生が内面的な事象を擬人的に表現する場合,同年代の人間を素材として用いることが少ないという興味深い結果を得た。この結果は,比喩表現のターゲットが自己の内面的事象である場合,用いられやすいソースと用いられにくいソースがあることを示唆している。比喩表現はターゲットとソースの間に類似性を見出すことが必要だが,なぜ本研究の大学生が自己との類似性が低い年長者をソースに用いやすかったのかは今後検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年間の研究計画の中で今年度は2年目にあたり,昨年の文献研究に続いて定性的なアプローチによって擬人化表現を収集・分析する作業が計画の主要部分であった。今年度の計画はおおむね実施することができた。まず擬人化表現の収集作業については,今年度に大学生を対象として実施することができた。また,収集した資料の分析とそれを論文にまとめる作業も実施でき,すでに公表されている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究によって,心理的問題を擬人化する過程についての仮説モデルについて検討し,定性的な資料の収集・分析が行われた。最終年度となる平成30年度は,仮説モデルを実験的に検討し,2者間の対話場面において心理的問題を擬人化することの効果を検証することが目的である。 質的に異なる複数の心理的問題を設定し,それぞれの問題の擬人化を促す教示を対面的に提示することによって,擬人化による表現のしやすさと擬人化することの心理的効果を実験的に検討する。擬人化する問題の種類(心理的苦痛・対人関係の問題・進路に対する不安を想定)と擬人化表現の方法(発話・筆記・描画を想定),および擬人化を促す手順の明確さ(構造化・非構造化)によって,表現のしやすさや擬人化したことによる心理的効果を測定する計画である。 現在,研究分担者と「問題の種類」および「擬人化表現の方法」について議論しつつ,擬人化を促す教示・コミュニケーションの内容について検討しているところである。また,実験参加者を大学生とするか中高生とするかに関して,検討を続けている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者が育児休暇を取得したため,実験用コンピュータや消耗品費,旅費などの支出を次年度に繰り越した。そのため次年度使用額が発生したものである。 しかし,コンピュータを実験で使用するのは平成30年度の予定であるため,研究計画の変更はなく,予定通り実験を行うため使用する計画である。
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