研究課題/領域番号 |
16K13503
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
河原 純一郎 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (30322241)
|
研究分担者 |
宮崎 由樹 福山大学, 人間文化学部, 講師 (70600873)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 顔 / 注意 |
研究実績の概要 |
顔や他者の視線方向を知覚することによって,反射的に注意の移動が生じる。今年度は,顔や視線によって誘発される注意の効果について,注意捕捉課題を用いて,顔による課題非関連な注意捕捉が引き起こす認識不全の水準を調べた。課題非関連な顔画像であっても注意捕捉が起こること,意識的には顔であることが報告できなくても注意捕捉効果は頑健に起こることがわかった。さらに,空間手がかり課題を用いて,次の6つの課題に取り組んだ。(a)視線によって誘発される注意の効果の追試。 (b)矢印によって誘発される注意の効果との比較。 (c)視線刺激の数や視線刺激の大きさによる注意の効果の変化の記述。 (d) 矢印刺激の数や矢印刺激の大きさによる注意の効果の変化の記述。(e)指向性を持つ物体によって無自覚的に注意捕捉が生じるかの検証,(f)およびこの効果が生じる水準(検出,同定,定位,対象へのリーチング行動)の特定。実験の結果,視線によって誘発される注意の効果が再現され,矢印による効果と時間的特性が異なること,視線刺激の数に依存して注意の効果が変化すること,矢印刺激の数によっても注意の効果が変化することが明らかになった。また,顔パターンではなくても,指向性を持つ物体でも同様の注意捕捉効果を持つことがわかった。さらに,この効果はリーチング行動に限らず,検出,同定課題でも生じることがわかった。 その他,次の萌芽的成果も得ることができた。我々はしばしば雲の模様や壁の染みをヒトの顔として知覚する。この日常的な物体にヒトの顔を知覚する現象の心理的メカニズムを探索的に検証し,いくつかの心理特性の個人差と関連することが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視線刺激によって誘発される注意の効果が視線刺激の数によって修飾されることをはじめて実証した。この研究の成果は,近近の学会にて発表予定である。完全に課題非関連な顔による注意捕捉研究,Attention capture without awareness in a non-spatial selection taskはConsciousness and Cognition誌の 48巻(117-128)に刊行することができた。空間的探索事態での注意捕捉効果を示した実験結果は既に昨年度学会発表済みである。この内容を現在執筆中で,Experimental Psychology誌に投稿予定である。その他の萌芽的成果の一部は, International Congress of Psychology第31回にて学会発表した。また,査読つきの国際学術雑誌Japanese Psychological Research に採択され,2017年度に公刊予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
2016年度の研究によって,視線や矢印によって誘発される注意の効果が,視線刺激の数や矢印刺激の数で変化することが示された。この効果をさらに検証するための追加実験を計画中である。指向性をもつ物体による注意捕捉・定位効果は本研究の結果,偶然発見されたものである。この効果が運動反応固有のものか,視覚認識全体に関わるものかなど,展開の可能性がある。この点を調べるためには,現在は手指によるポインティングを使った空間的定位課題としているが,指向する先に弁別すべき視対象をおいた弁別課題で実施すするか,単純検出課題の中に組み込む実験が必要だろう。 その他の萌芽的成果から,日常的な物体にヒトの顔を知覚する現象に認知スタイルの個人差が関係している可能性が示された。この点について,個人間の現象の生起の程度と認知スタイルの個人差の相関研究をオンラインで実施する。それと並行して,実験室にて,実験手続きで認知スタイルを操作することで,本現象がどのような影響を受けるか検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた状況は,物品費,旅費,人件費,謝金が想定したよりも多くかからなかったため。物品には,昨今の環境への配慮,消費電力の抑制を鑑みて装置の新規調達を見合わせたことによる。人件費のうち謝金が少なかったのは被験者の応募が少なかったことによる。一昨年とほぼ同規模で募集することで,一昨年度と同程度の被験者応募数があることを見込んだが,今年度は応募が少なかった。掲示する募集要項の様式を変えたことによるものかもしれない。
|
次年度使用額の使用計画 |
翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画としては,被験者実験の実施要員を早めに雇用し,募集期間を前倒しすることで被験者数を確保する計画である。旅費は日本心理学会第81回大会(久留米大学),Psychonomic Society Annual Meeting (Vancouver, BC, Canada)への参加費用とする予定である。
|