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2016 年度 実施状況報告書

迷走神経系刺激による不快感情の制御とその神経基盤

研究課題

研究課題/領域番号 16K13504
研究機関名古屋大学

研究代表者

大平 英樹  名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (90221837)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2018-03-31
キーワード生理 / 迷走神経 / 感情
研究実績の概要

本研究では,脳と身体を双方向的に繋ぎ,ストレスや恐怖・不安などの不快感情の制御に重要な役割を果たしている迷走神経を,経皮迷走神経電気刺激により活動亢進させ,不快感情と,それに伴う交感神経系・内分泌系・炎症の各反応への制御を促進できるかを検討することを目的としていた。しかし経皮迷走神経電気刺激のための装置が日本に輸入できないことが明らかになったため,1分間6回程度の深呼吸により迷走神経活動を活動亢進させる方法に変更して,30名の被験者を対象にして予備的な実験研究を行った。
被験者を,深呼吸を行う群と,自然呼吸を行う群に分割し,この操作の後,時間圧を負荷した暗算課題により急性ストレスを課し,そこでの炎症反応(IL-6),自律神経系反応(心拍,心拍変動性),心理的反応(主観的ストレス感)を測定してそれらへの影響を検討した。この結果,深呼吸は心拍変動性の低周波成分パワーを顕著に増加させ,同時に心拍数を減少させることが示され,迷走神経活動亢進が示唆された。またこのとき,ストレス刺激として負荷した時間圧を伴う暗算への炎症反応(IL-6)と主観的ストレス感が抑制されることが示された。さらに,主観的ストレス感の抑制は,炎症反応の抑制に統計学的に媒介されることが示された。これらの結果により,迷走神経の活動亢進がストレスやそれに伴う不快感情を抑制的に制御しうることが示唆された。
これらの結果から,迷走神経活動を操作する新たな方法を確立することができ,次年度には当初の目的である,迷走神経活動亢進による不快感情の抑制的制御に関する神経基盤を検討できる目途が得られた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本研究では,経皮迷走神経電気刺激による迷走神経活動の亢進を実験操作として使用する予定でった。このための装置はアメリカ製であるが,日本への輸入実績がなく,先方に問い合わせたところ何らかの理由で現在は日本に輸入できないことが明らかになった。そのため,迷走神経刺激の別の方法として1分あたり6回程度の深呼吸を用いることとした。
この変更のため,研究計画を修正することになり,また新たな方法の予備的検討に時間を要した。しかし幸いに深呼吸による操作方法が良好な結果を得たため,来年度には当初の計画を遂行できると思われる。

今後の研究の推進方策

平成29年度には,前年度に得られた知見に基づき,迷走神経活動亢進による不快感情抑制効果の神経基盤を明らかにするためにfMRIを用いた神経画像研究を行う。具体的には,①ベースライン安静,②深呼吸による迷走神経刺激または安静(統制条件),③安静時神経ネットワーク活動の撮像、④不快感情喚起課題中の脳賦活の撮像,の段階からなる実験手続きを実施する。①、②の段階はMRI スキャナ外、③、④の段階はMRI スキャナ内で行う。脳画像の撮像には、名古屋大学「脳とこころの研究センター」に設置されている3T-MRI スキャナを使用する。
検討項目として,まず深呼吸後に安静時神経ネットワーク活動の撮像を行い,ベースラインの脳状態からの変化の有無を解析する。これにより迷走神経刺激が脳の広範囲な領域の活動に及ぼす影響を検証することができる。次に,不快感情喚起課題を遂行中の脳賦活をfMRI で測定し,感情状態の自己評価,自律神経系活動,唾液中コルチゾールとIL-6 の濃度を測定する。これらの方法により,迷走神経刺激の感情の心理生理的反応への効果について前年度に得られた知見の再現を目指しつつ,その背後にある神経基盤を検討する。特に,身体からの信号が投射され表象される島皮質,感情制御の基盤である前頭眼窩皮質と前頭前皮質,感情を生起させる辺縁系領域を関心領域とし,それらの賦活及び機能的結合を解析する。

次年度使用額が生じた理由

当初予定していた電気刺激による迷走神経刺激装置が日本に輸入できないことが判明したため,この装置を購入するための予算が執行できなかった。代替案として,深呼吸による迷走神経刺激を試み,有望な結果を得たが,平成28年度は予備的研究に留まったため比較的小規模な研究を行い,結果として執行額が少なかった。

次年度使用額の使用計画

代替案として検討した深呼吸による迷走神経刺激が有望な結果を得たため,平成29年度には予定していた神経画像研究を遂行する。そのための費用として使用する。また,この課題に関する世界の最新の研究動向に関する資料収集を行うため,平成29年4月にボストンで開催される感情科学学会(Society for Affective Sciences)大会に参加するための費用として使用する。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2016 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件)

  • [国際共同研究] リール大学(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      リール大学
  • [雑誌論文] 脳活動の同期を導くメカニズム-定藤論文へのコメント-2016

    • 著者名/発表者名
      大平英樹
    • 雑誌名

      心理学評論

      巻: 59 ページ: 283-291

  • [雑誌論文] 価値・予測・誤差-社会性を支える意思決定システム-2016

    • 著者名/発表者名
      大平英樹
    • 雑誌名

      エモーション・スタディーズ

      巻: 2 ページ: 46-55

    • 査読あり

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公開日: 2018-01-16  

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