仮現運動は100年以上前に発見された現象で、今日では人工的な動画の表示はほぼすべて仮現運動を利用しているといっても過言ではない。一方、「postdiction(後付け)」という概念は、比較的新しいもので、約20年前にフラッシュラグ効果の説明のために使われたのを契機として、多くの分野に浸透していった。本研究では、postdictionの概念を用いることで、仮現運動の知的情報処理と考えられていたものをどのように説明できるかという疑問から出発している。主要な研究結果は、主観的輪郭をもつ図形のvisual saltation効果に関するものである。visual saltation効果は、ある位置で2回視覚対象を点滅させて3回目を離れた位置に提示すると、知覚的には、2回目の点灯が1回目と3回目の中間の位置に見えるという現象である。これは3回目の点灯位置が決まらないと2回目の点灯位置の見えが定まらないことから、時間をさかのぼって2回目の点灯位置を決めたことになるため、postdictionの代表的な現象といえる。この現象が、カニッツァタイプの主観的三角形、エーレンシュタイン図形および縞の向きで定義された四角形においても起こることを明らかにした。カニッツァタイプの主観的輪郭図形や縞の向きを使ったテクスチャ定義図形では、同サイズの輝度定義図形よりもsaltation効果が強いという結果を得た。運動知覚においては、輝度定義図形は最も強いボトムアップ型の運動信号を出すので、この効果とは一致していない。トップダウンの効果として、ある時間範囲内で前後関係を矛盾なく説明するための位置や運動の解釈が行われるものと考えられる。また、この研究から偶然みつかった周辺視でのフリッカー錯視についても詳細なデータを得た。
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