研究課題/領域番号 |
16K13509
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
伊澤 栄一 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (10433731)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 道具使用 / 身体マッピング / 感覚運動協調 / 比較認知 / 眼球運動 |
研究実績の概要 |
カレドニアカラスは、小枝や葉をクチバシで咥えて操作し採餌する。ここには鳥固有の身体形態に由来する感覚-運動上の問題がある。眼とクチバシが共に頭部にあるゆえ、道具を操作するために頭部が動くと視界が乱れ、標的を安定して視野内に捉える補償作用を要するという問題である。カラスがどのようなメカニズムでこの問題を解決しているのか不明である。本研究は、カラスの道具使用における感覚-運動協調について、その計測技術の開発とともにそのメカニズム解明を目指す。 平成29年度は、道具使用を構成する基盤的運動として、餌のついばみ到達運動をモデルとした行動課題の立ち上げと運動学的解析法を確立し、その感覚-運動協調メカニズムをハトとカラスで比較検討した。道具使用が延長された身体の操作であることに着目し、歯科用セメントで着脱式の人工クチバシを作り、ハトとカラスに装着することでクチバシを約30%延長するという操作を行った。装着前、装着中、離脱直後、離脱1週間後の計20日間にわたり、床の餌をついばむときの頭部とクチバシの運動を高速ビデオ撮影し、運動解析を行った。結果、カラスは、延長クチバシ装着直後のみ、餌取得成功率が下がったが、それ以外の期間は影響が生じないクチバシ延長への早い順応が確認された。一方、ハトは、装着中一貫して、餌取得成功率の顕著な低下がみられ、離脱直後も回復が遅かった。詳細な運動学的解析によって、カラスはクチバシ延長によって早く餌に到達する影響を、クチバシ開口を早めることで補償する柔軟性が見られ、離脱後は直ちに元の運動に回復した。一方ハトは、クチバシを早く開ける補償作用が十分に機能していないように見えたものの、離脱後にはクチバシを早く開けすぎる運動の残効が確認された。これらの結果から、身体延長に対する順応性はハト、カラスともに備わっているが、両者のメカニズムは異なる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
眼球運動測定技術の開発に想定以上の時間を要しているものの、有効な行動課題の立ち上げと運動学的解析の方法を確立できた点は計画通りに進めることができている。さらに、確立した行動課題を用いてハトと比較することでカラスの感覚運動協調のメカニズムの一端を明らかにできた点は当初計画より進んだ点である。したがって、研究全体としては順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に開発した頭部・クチバシの到達運動課題を土台に、引き続き高速ビデオ撮影データをもちいた眼球画像処理による眼球運動の追跡・再構築の技術を立ち上げながら、それと並行する形で、プリズムを用いた視野変動技術を導入し、延長された身体マップ(クチバシ)とどのように補償・統合されるかを明らかにすることで、感覚-運動の協調メカニズムをさらなる解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
高速ビデオカメラのコントラスト向上のための赤外線照射器および高速ビデオカメラの追加購入を予定していたが、実験装置の光条件および壁・床の色と素材の改変などの消耗品レベルでの工夫によって、当該器の導入が不要になったことで、計画していた運動解析に耐えうる精度の頭部運動データの取得が可能になったため、当初予定していた物品費の購入が不要になった。
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次年度使用額の使用計画 |
計画していた以上の早さで行動課題の立ち上げと感覚-運動協調メカニズムの解明が進んだため、当初は予定していなかった視覚および運動場の外乱を操作できる段階にまで大きく実験条件とその理解を進めることができた。これをベースに、H29年度には視覚順応操作のためのプリズム装置作成、および、運動場操作のための磁場発生装置の導入に相当額の使用を計画している。
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