本研究は,発達障害児を含むクラスで授業を展開する教師の指導方略を質的に分析し,教師の専門性向上のプロセスを明らかにすることを目的とするものであった。具体的には,特別支援学校の指導技術と小・中学校のベテラン教師の授業展開について、質的分析法(エピソード記述と半構造化面接)を用いて調査し、ベテラン教師が有している授業づくりの原理と方法を解明することを目的とした。研究最終年度の2018年度は、これまで実施してきた授業分析等の研究成果を論文にまとめた。その一つとして、ベテラン教師やミドル・リーダーの教師が駆使している指導技術について質的に分析した結果、それらの教師が駆使していた授業技法は、ユニバーサルデザインなどの特定の決まった指導法に沿った「専門的技法」ではなく、従来の教育方法学が大切にしてきた授業づくりの原理や基本の延長線上に位置づくものであったことが明らかになった。これは、教師の世界に児童を引き寄せるのではなく,教師が児童の世界に近寄っていくことによって,児童の気持ちや考えを理解しようとするものであり、こうした原理にもとづき提供される授業こそが学習困難児の学習参加を高めるインクルーシブ授業であると考えた。なお、本研究は質的研究の手法を用いて進められたため、多くのベテラン教師のインタビューを実施することはできなかった。そのため、本研究の知見を汎用化できるかどうかという点では課題が残されていおり、この点については今後の課題である。
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