研究課題/領域番号 |
16K13515
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐藤 博志 筑波大学, 人間系, 准教授 (80323228)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 成功した校長 / 中学校 / 小学校 |
研究実績の概要 |
平成29年度には、「成功した校長」に関する調査研究と論文執筆を行った。平成28年度中に調査した中学校と小学校について、平成28年度中にはデータ分析に充分着手できなかった。そこで、平成29年度に入ってから、データ分析を行った。そして、論文を執筆した。その論文は、「「成功した校長」に関する研究―日本における公立小学校長の事例分析を通して―」(『筑波大学教育学系論集』第42巻第2号、平成30年3月刊行)である。おおよそ、この論文に、一つの事例を通して、「成功した校長」の力量や行動の重要な部分をまとめることができた。具体的には、第一に、これまでの学校及び教育委員会での勤務経験が、現在の学校経営における学校評価の有効活用につながっていること、第二に、地域社会の状況が影響を与えていること、第三に、個と集団が響き合う教育の実現を目指すため授業研究をビジョンとして重視していること、第四に、過去の勤務校での研究企画への関与や意欲的な当時の校長からの学びがあったこと、第五に、人間関係においてコミュニケーションを重視していることが分かった。 その後、平成28年度に調査した中学校と小学校において、校長へのフォローアップ調査、教諭、保護者への聞き取り調査を行った。この聞き取り調査では、国際的な研究グループである「成功した学校の校長職に関する国際的プロジェクト」の聞き取り項目を使用した。これらのデータは既に原稿に起こされている。しかし、平成29年度には、データ分析を充分行うことができなかったため、次年度の課題となった。今後の研究においては、まず、これらのデータを使用して論文を作成することがあげられる。別の事例校を選定し、より充実した事例研究を行うことも予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた通り、事例研究を遂行できた。事例研究の成果は、佐藤博志・山田知代「「成功した校長」に関する研究―日本における公立小学校長の事例分析を通して―」(『筑波大学教育学系論集』第42巻第2号、平成30年3月刊行)に著すことができた。この論文は、国際的な研究動向を留意し、成功した校長を主題とした日本で初めての研究論文であり、オリジナリティがある。研究代表者と連携研究者の間で討議を行い、データを多面的に分析した。 平成29年度には、校長以外の属性の教員、保護者などへの聞き取りも行った。これらのデータは興味深いものであるが、分析するには至っていないとはいえ、データを蓄積できたことは、研究の進捗状況として肯定的に捉えられる。 平成29年度の注目すべき進捗として「成功した学校の校長職に関する国際的プロジェクト」の研究ガイドを入手し、それをじっくり検討することができた点である。これによって、今後の研究の方向性や方法が明確になった。「成功した校長」に関する英語の既存の発表論文を通して分かる点もあるが、研究の方法については必ずしも詳細には述べられていないケースもあるため、この研究ガイドを検討できたことは意味があった。さらに、平成29年度には、研究ガイドに準拠した方法で、事例研究を進めることができた。たしかに、部分的な考察に留まる点はあるが、二年目の実績としては、おおむね、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、平成29年度に蓄積したデータを活用して、論文を作成することが必要である。その際、各データの共通点と相違点を比較し、一定の傾向を見いだすことが求められる。 第二に、新たな事例校を設定し、事例研究を推進することを予定している。その際、成功した学校の校長職に関する国際的プロジェクト」の研究ガイドに完全に準拠したかたちで、研究を進める。そして、英語による研究成果の発表を目指していく。 第三に、オーストラリア、ニュージーランドも含めた国際的な比較の観点、いいかえれば、国際的な「成功した校長」の動向の中で、日本の校長はどのように位置付けられるのかを検討する必要がある。その際、各国の文化的背景や制度的な違いも考慮する必要がある。 第四に、海外において「成功した校長」に関する研究成果を発表する際の方法や計画について練っておく必要がある。日本と海外では、同じ教育経営研究であっても、概念や論点、さらには論文の構成が若干異なる。海外における研究成果の発表に備えて、研究のフレーム、論文の作成方法について検討する必要がある。 第五に、研究全体をまとめるに当たり、理論的な知見を振り返る必要がある。まずは、平成28年度に行った理論的なレビューを振り返ることが必要である。次に、最新の研究動向をふまえることはもちろんのこと、経営学、心理学、社会学など社会科学全般における関連概念や知見も視野に入れる必要がある。その上で、本研究全体を総括したいと考えている。
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