研究課題/領域番号 |
16K13515
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐藤 博志 筑波大学, 人間系, 准教授 (80323228)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 校長 / リーダーシップ / 学校 |
研究実績の概要 |
「成功した校長」の力量と行動を詳細に解明するために、日本の事例研究を行った。そのために、まず「成功した校長」研究の国際標準調査フレームを検討し、その内容や疑問点について、オーストラリアの大学教員に確認した。その結果、この調査フレームが、包括的かつ多面的な調査法を採用していることが分かった。この調査法による研究は、時間を要し、多様な属性を対象にした分析を求めている。そして、深く精緻な事例分析を基盤として、学校の経緯、背景、組織運営の展開プロセスを時系列的に検討する必要がある。次に、優れた校長が勤務している事例校を選定した。いくつかの候補校を検討したところ、1つの学校で事例研究が可能となった。この学校に7回訪問し、調査を行った。その結果、事例校の校長の特徴として、次の点が明らかになった。「①「人間関係」「人の善さの理解」を考慮したリーダーシップを発揮している。②教育者としての自分を基盤としており、生徒との交流を大切にしている。③生徒に対して教育的なリーダーシップを発揮している。④教員に対してもリーダーシップを発揮しているが、調和や助言を重んじ、中期・長期的な視点を持ち合わせている。⑤保護者からの理解を得ている。⑥地域住民からの理解も得ている。⑦生徒の満足度や生活充実度について大きな成果を得ている。⑧教育委員会との協力関係が良好であり、適宜折衝も行っている。⑨教育ビジョンが明確である。⑩過去と現在において自己研鑽を常に行っている。⑪授業と教育方法に関する見識がある。⑫貢献、感謝、奉仕の精神がある。」以上のような「成功した校長」の特徴は、海外の先行研究の知見と類似している点があるが、「人間関係」の考慮や教育者としての側面が非常に重視されている点は、この事例の特徴である。2019年度は、フォローアップ調査などを実施するとともに、学術論文として研究成果をまとめる努力を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
事例調査のまとめと分析、論文の執筆に想定以上の時間がかかった。2018年度は「成功した校長研究」の国際標準調査フレームを完全に活用した事例調査を行った。この調査フレームを活用した研究は、日本で初めてであり、アジアでも初めてである。もともと、欧米豪で開発された調査フレームであるため、日本の学校の状況においては、実施し難い面もある。例えば、日本の学校は非常に多忙である。この調査フレームは、多様な属性の人々を対象に調査を行うが、時間がかかるため、多忙な日本の学校では、日程調整が円滑に進むとは言い難い。つまり、まず、調査の実施に想定以上の時間がかかった。次に、事例調査のまとめと分析についても、想定以上の時間がかかった。理由は、データの量と種類が非常に多いためである。単にデータの量と種類が多いだけではなく、国際標準調査フレームでは、データの分析方法が定められていることにも留意が必要であった。すなわち、データを活用する前に、一定の整理と検討が必要になっている。このような作業を進めるには時間が想定以上にかかった。また、前述のように、日本人として初めてこの研究と分析を行っており、周囲には、調査フレームに詳しい助言者もいないため、分析の速度をあげることも、率直に言って、難しかった。たしかに、オーストラリアの研究者から助言を得ることはできたが、研究の熟達度の相違、言語上の壁、研究文化の相違、学校の状況(制度と環境)の相違があるため、必要な助言をすべて得られたとは言い難い。このことも研究の進展の遅れをもたらした。一方で、本研究は、日本はもとより、アジアでも初めての研究であるため、学術論文として成果をまとめることが必要である。2019年度は、研究を完成するために、鋭意努力する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究を推進するために、データの分析、整理、論文の執筆を円滑に行い、学術誌への投稿を行う予定である。具体的には、4月~6月にデータの分析と論文の草稿の執筆を行う。7月~9月には、海外の理論や方法論を一層検討した上で、論文の完成を目指す。その後、10月以降、学術誌に投稿できるような体制を整えるとともに、これまでの研究の総括を行う。本研究のデータ分析では、一定の方法にもとづいて、少しずつステップを踏むことが効果的と考えられる。いわば急がば回れの精神で進める必要がある。ただし、必要以上にデータの子細に気を取られてしまっては、進捗が大幅に遅れ、研究の本質や目的を見失いかねない。そこで、データの要点が何なのかを意識して、データを整理する所存である。論文の執筆にあたっては、ローデータを最初から活用しようとするよりも、むしろ、データを記述・総括したものを活用することが望ましいことが分かった。そして、草稿をある程度作成した上で、推敲する中で、ローデータを適宜活用することが有効であろう。このような手法は、データの検討や論文執筆を試みる中で、気が付いた点である。今後の研究に反映させる予定である。論文の内容と書き方についても検討を重ねている。どうしても、様々な理論や諸説を前に出して、論文を書こうとしてしまうが、それでは、この研究のようにデータが非常に豊富な場合、うまくいかない場合もある。まずは、事実関係を実直に執筆して行くことにする。問題の設定においても、素朴な書き方をして、必要であれば、草稿完成後に理論的に補強する手順をとりたい。今回作成している論文は、国際的な発信を目標としている。したがって、研究の総括においては、日本の学校経営と教育行政の制度と環境、社会文化背景などにも言及し、国際的に意義のある研究成果を示したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は「成功した校長」の力量と行動の解明を目的としている。この目的を、当初の想定よりも、一層精緻に達成するために、国際的に確立した研究方法にもとづいて、事例調査を行った。しかし、調査結果のまとめと分析、論文の執筆と投稿については、時間が想定以上にかかった。さらに、研究の精緻な成果を得るための追加調査を行うことが必要と考えたため。
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