研究課題/領域番号 |
16K13518
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
桐淵 博 埼玉大学, 教育学部, 研究員 (00726622)
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研究分担者 |
関 由起子 埼玉大学, 教育学部, 教授 (30342687)
中下 富子 埼玉大学, 教育学部, 教授 (50398525)
野瀬 清喜 埼玉大学, 教育学部, 名誉教授 (60156198)
戸部 秀之 埼玉大学, 教育学部, 教授 (70273745)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | BLS / 学校事故防止 / 救命教育 / 教員養成 / 教員研修 / 教員の危機意識 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、埼玉大学教育学部学生を対象にBLS(Basic Life Support=一次救命)に関する学習の状況と意識に関するアンケート調査を行うとともに、東京港区、愛知県、愛媛県、埼玉県、同越谷市、同狭山市、同上尾市、宮城県、栃木県足利市、高知県、山口県、名古屋市、佐賀県、大阪府吹田市、岩手県等で、研修会に参加した学校関係者を対象に同趣旨のアンケート調査を行った。また、さいたま市教育委員会の協力を得て、市立小・中・高・特別支援学校の教員対象のアンケート調査を実施した。さらに、小児循環器学会、教職員支援機構、東京都予防医学協会等で発表、講演を行った。 これらの調査結果から、ASUKAモデルをベースに計画的な教員研修を実施しているさいたま市とそれ以外の学校について、「管理職」「養護教諭」「保健主事・安全担当」「その他の教員」の4群に分けて比較を行った結果、①どの群でもさいたま市の方が救命講習の受講回数が多く「救命活動ができる」と答える率が高かった。②「救命活動ができる」という回答は「管理職」や「養護教諭」において顕著な差が見られるが、免許や資格を要しない他の群ではその差が縮小する。③救命活動に「不安」「できない」と回答した理由としては、両者とも「分かっていても慌てる」「技能に自信がない」「悪化させるのでは」との回答が多い。④さいたま市以外の教員でも、ASUKAモデル等の講演を聞いた直後では救命活動への自信が大きく強化され、その理由として「心肺蘇生やAEDの有効性が分かった」「悪化させることがないことが分かった」との回答が多い。⑤ASUKAモデル等の講演を聞いた場合とそうでない場合では、「教職員が自信や勇気を持てるようになるためには」に対して前者は実態や緊急性の理解を挙げ、後者は技能や訓練を挙げるなどの差が認められる、など重要な諸点が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学生や教職員対象のアンケート調査は一定の規模に達し、BLSに関する教職員研修の実態と課題が明らかになった。特に、さいたま市とそれ以外の学校の教職員との比較によって、救命活動への「自信」は計画的・継続的な講習受講によって強化され、また、受講回数だけでなく学校事故の実態や対応の緊急性に対する適切な理解によっても強化されることが明らかになった。 これらの研究成果は、日本臨床救急医学会学校へのBLS教育導入検討委員会及び日本AED財団の活動に反映させることができた。また、日本小児循環器学会学術集会においてその成果の一部を発表した。さらに、日本AED財団理事として、つくば市立小学校を会場に、5年生を対象とした救命教育の公開授業と医師、授業公開した学級担任教諭、教育委員会職員、学校での突然死児童の遺族、文科省強化調査官を演者としたシンポジウムを主催し開催した。このフォーラムは昨年度に続いて2回目となり、今後の全国展開に向け研究成果を生かす上で重要な機会となる。 学校事故防止とBLSに関する研修の重要性については全国的に理解が広がってきており、令和3年度から実施される中学校学習指導要領保健体育科においてもBLSの指導内容が強化される。これらを背景に、次年度も各地の教育委員会等から講演依頼がありアンケート調査への協力も得られる見込みである。また、臨床救急医学会だけでなく小児科関連学会等医療関係団体との連携も進んできた。こうしたことから、研究はおおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
教職免許法の改正により、教員養成課程において平成31年度入学生から「学校安全」に係る内容が必須となった。しかし、これは独立した科目ではなく、かつその内容も細部は決められておらず各大学に任されているのが現状である。「学校安全」については、自然災害や犯罪被害の防止、交通安全教育などの課題があるが、その一方、近年の医学が明らかにしてきた突然死防止対策の重要性については大学関係者に十分に理解されているとは言いがたい現状があり、教員養成学部においてもカリキュラム化されるかどうかがはっきりしていない。こうしたことから、研究最終年度は、これまでの研究成果をまとめ教員養成課程におけるBLS教育の重要性を明らかにするとともに、その実践のために必要な方策等についてまとめた研究報告書を作成し、教員養成学部を持つ大学に参考資料として提供することを目標とする。 そのため、①引き続き講演依頼のある全国各地の教育委員会等の協力を得て、教職員に対するアンケート調査を実施し、調査の精度を高める。②予定されている小児科学会、小児心電学会学術集会等での発表を通じて、学校における突然死ゼロを実現するための諸方策について課題意識を共有する医師等との協議を進める。③日本AED財団理事、日本臨床救急医学会学校BLS教育導入検討委員として、小学校での授業実践を中心としたフォーラムの開催を通じてこれまでの研究成果を生かした知見を広げるとともに、小学校からの体系的な救命教育を実現するための実践的な課題について明らかにしていく。④埼玉大学においては1年生必修科目「教職入門」に加えて、養護教諭養成課程での特別講義、教職大学院での特別講義、免許更新講習での講義などが予定されており、これらを通じて、教員養成課程におけるBLS教育の実践的課題を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 埼玉大学で用いる蘇生人形及びAEDトレーナーなどの機材は、さいたま市消防局の全面的な協力を得て無料の使用ができている。また、平成30年度に実施したさいたま市立学校を対象にしたアンケート調査については、同市教育委員会の全面的な協力が得られたため、用紙印刷代など最低限の支出額に抑えることができた。さらに、アンケート調査が拡充できることまた医療関係学会での発表があることから研究期間を1年延長したため、研究報告書の印刷製本費は次年度に繰り越した。 (使用計画) 拡充するアンケート調査等に必要な費用、また研究成果の全体をまとめた報告書の印刷製本及び全国の教員養成学部等に参考資料として提供するために必要な費用に充てる計画である。
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