研究課題/領域番号 |
16K13533
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研究機関 | 立教女学院短期大学 |
研究代表者 |
高橋 舞 立教女学院短期大学, 幼児教育科, 専任講師(任期制) (50735719)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 戦争の記憶継承 / 厄災の記憶継承 / 媒介者 / 加害性 / 生の技法 / 戦争記憶空間 / 教育メディア / 民衆思想 |
研究実績の概要 |
本研究は、「戦争の記憶」継承の教育実践理論構築を目的に、沖縄と韓国を主なフィールドとし、1.韓日の戦争記憶空間の教育メディア効果に関する研究、2.「戦争・厄災の記憶」継承に深く関わる人物の史資料・聞き取り調査を手法とした研究を通して、人間の生き方に深く関わる継承という<生の技法>が、共生知として体得される場合の過程を解明し、その存立条件を抽出することを試みてきた。 韓日のフィールド調査としては、「現在までの進捗状況」に示した通り、2017 年度に引き続き2018年度も韓国フィールド調査の実施が叶わなかったものの、「戦争の記憶」を通した韓日交流の要となっている「恨の碑」慰霊式(6月16日・3年連続参加)、沖縄慰霊の日(6月23日)、沖縄の盆と、いずれも沖縄の「戦争の記憶」にとって重要な日を中心とした3回の沖縄フィールド調査を実施し、人物研究の中心となる金城実氏、知花昌一両氏の上記の関わり方を非参与・参与観察することができた。またこれらの研究成果として、2018年9月に行われた教育思想史学会大会にて両氏に登壇いただき、沖縄の「戦争の記憶」継承において重要視され、両氏を繋いだ起点になった強制集団死の記憶を遺す「チビチリガマ」(読谷村)に焦点化したテーマで発表し、記憶継承の在り方、可能性について指し示すことができた。 また10月に開かれた教育哲学会大会では、「戦争の記憶」継承の重要な視点となる韓日問題、厄災の記憶継承を含めた視点から、史資料を通した人物研究および、交流を図ってきた花崎皋平氏(民衆思想家)、金正美氏(放送作家)にご登壇いただき、継承の研究を行っている岡部美香氏(大阪大学)と4名での共同発表で、共生知体得を基軸とする教育実践理論創生に必要な諸概念を整理・提示し、大阪大学教育学年報、教育哲学会学会誌にて成果報告を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、2016~2018度の3年間の研究計画で行われていたが、昨年夏に子の介護が必要な状況が生じたため、昨年度後半は研究中断し1年間の研究延長申請を行った次第である。 これにより大幅に研究遅延している点は、韓国へのフィールド調査研究である。所属変更に伴う仕事環境の変化・増加によって、通訳同行の調整など準備に時間を要するため実施できなかった2017年度に引き続き、2018年度は、年度後半に子どもが病気療養に入ったために、韓国へのフィールド調査が実施できなかった。 しかしもう一方のフィールド調査地である沖縄へは、2016年度から予定していた通りの、継続的調査が実施できた上に、さらに研究計画時に予定した以上の時間をあてて、聞き取り調査・インタビューなどの人物研究を細やかに進めたため、当初の予定を上回る豊かな成果を得た。また、現在調査に入っている沖縄の戦争記憶空間や人物たちは、韓日交流の要の役割も担っており、そうした交流状況の非参与・参与観察によって、韓日の「戦争の記憶」に焦点を当てた本研究主旨においても当初の予定を超えた知見が与えられた。このため、研究の目的である教育実践理論創生には大きな支障はなかったと考える。 2019年度は韓国へのフィールド調査を実施し、さらに沖縄・韓国へのフィールド研究を充実させ、これまでの調査の成果を言語化し、成果の公表に励みたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
1.韓日の「戦争の記憶」継承の在り方を解明する上で、欠かせない課題の一つに日本軍が関与したと考えられている、いわゆる「従軍慰安婦(性奴隷)」問題があげられる。その「戦争の記憶」を色濃く遺す戦争記憶空間である、韓国・元「従軍慰安婦」とされた女性のためにつくられた老後施設「ナヌムの家」および併設された歴史館が、2015年より大規模なリノベーションを行っている。研究代表者は、2001年に初来訪して以来、複数回におよび訪問を重ねてきたとともに、2014年からは正式な形(スタート支援26885077、挑戦的萌芽研究16K13533)で、継続的な風景変化の非参与・参与観察と職員に対するインタビュー調査を実施してきた。本年度は再度「ナヌムの家」を訪問し、現在のリノベーション状況の非参与観察を行うと共に、職員へのインタビュー調査を実施し、「戦争記憶空間」の教育メディア効果の変化と、その意義や課題について分析・言語化し、公表する。 2.2018年度に教育思想史学会で公表した沖縄読谷村に位置づく強制集団死の記憶を遺す「チビチリガマ」に焦点化した、戦争記憶空間の継承の在り方・可能性についての試論は、文字化の作業がのこっており、新たに得られた知見を加え教育思想史学会学会誌に掲載し、より広く研究成果を公表する。 3.沖縄フィールド調査によって、時間の経過とともに教育メディア効果は後退していかざるを得ないと考えられてきた戦争記憶空間が、空間化に携わる媒介者如何によっては、より教育メディア効果を上げることもできる点、および、読谷村を中心とする沖縄の「戦争の記憶」継承において、それらの効果をもたらした主要な要素として金城実氏と知花昌一氏両氏の出会いと、共生関係が大きく関与していることがわかった。したがって、本年度はさらに両氏への聞き取り調査を行い、両氏の継承の在り方を抽出することで、記憶継承の実践理論を創成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費に加え、通訳の同行や、インタビュー内容の翻訳(韓国語から日本語)、研究報告書の翻訳(日本語→韓国語)作業などに経費を要する韓国フィールド調査を2018年度後半に予定していた。しかし調査研究実施前に、子の介護が必要な状態となり研究中断をしたため、まとまった金額の次年度使用額が生じた。
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備考 |
沖縄修学旅行を実施している奈良教育大学附属中学校より年間を通した沖縄問題の学習成果発表に対する総評依頼を受け、2018年度教育研究会(2018年9月28日)パネルディスカッション「どうして「ひとに出会う」を通して学ぶのか? 3年「総合的な学習の時間」を通した取り組みから新学習指導要領の課題に迫る―子どもたちは何を問い 考え 語り 世界と関わろうとしたのか?―」にコメンテーターとして参加・発表した。
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