本研究では沖縄と韓国を主要フィールドとし1.遺跡・慰霊碑・戦争歴史博物館等の戦争記憶空間における教育メディア効果分析、2.戦争や厄災などの記憶継承に携わっている人物史資料・聞き取り調査研究を通し、人間の生き方そのものを規定する「継承」という〈生の技法〉が、〈共生知〉として体得される場合の過程を解明し、その存立条件抽出を目指してきた。 最終年度は2018年度に教育思想史学会にて研究成果の一部として公表した、強制集団死の記憶を遺す「チビチリガマ」の戦争記憶空間の継承に関する金城実氏、知花昌一氏との共同発表を、両者の発言中心で文字化したものを教育思想史学会学会誌に掲載し、被害・加害の立場を有する継承者たちが「協働=共生」し民衆思想化されることが〈共生知〉として人々に広く継承される存立条件となる点を、「チビチリガマの記憶継承に決定的に関わった両者による証言」の貴重な記録という形で公表できた。 また10月と2020年3月に北海道に住む民衆思想家・花崎皋平氏に対する資料・聞き取り調査、11月には沖縄民衆思想家・金城実氏、知花昌一氏、ドキュメンタリー映画監督・三上智恵氏への聞き取り調査、12月には渡韓し、継続的調査を行ってきた「ナヌムの家」の聞き取り調査等フィールド調査も実施した。特に被害・加害的立場のある「戦争記憶」継承において欠かせない課題の場となる韓国元従軍慰安婦(性奴隷)の老後施設・歴史館「ナヌムの家」が2015年より大規模リノベーションを行っており、スタート支援(26885077)、挑戦的萌芽研究(16K13533)によりリノベーションの開始前からの経過状況を直接継続的に観察し、今回のフィールド調査時には8~9割方完成した時点までを考察できた。戦争記憶継承の空間が当事者不在となっていく過程と〈共生知〉継承における空間化の意義や課題点公表に向けさらに研究を進めていきたい。
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