研究課題/領域番号 |
16K13551
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石田 洋子 広島大学, 教育開発国際協力研究センター, 教授 (20772461)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | スクールガバナンス / 教育開発 / 復興支援 / 住民参加 / 学校運営 |
研究実績の概要 |
2015年4月に発生したネパール大地震は教育分野にも大きな被害をもたらし、発災直後から多くの支援が小中学校に寄せられているが、地震後2年以上経ってもいまだに子どもたちが仮設教室での学習を余儀なくされている学校が多いことが確認された。 スクールガバナンス強化と復興プロセスの関係を見るために行った複数校へのインタビュー調査から、政府からの支援は計画通りに学校まで届いているわけではなく、またNGO等からの支援はコミットしたにも関わらず実現されていないケースも多いという実情がみえてきた。さらに、地震の被害を受けた山岳地域から都市部へ避難した住民は、避難先に住みついて子どもたちを避難先の学校に通わせ始めており、教育現場での混乱が起きていることも確認された。 こうした中で、外部からの支援を待つだけではなく、学校復興計画を作成して、学校と住民が協力して可能な範囲の活動を行ったり、或いはSNSなどを使って広く発信して復興への協力を外部から得るなどして、早期に教室のリハビリを実現し、防災活動なども手掛けている学校がある一方で、外部からの支援に頼り、さらなる支援が来ることを待っており、未だに子どもたちが仮設教室で授業を受けておりリハビリの目途が立っていない学校もあることが判明した。 前者は、ネパール政府とJICAによる学校運営改善支援プロジェクトのパイロット校であった学校で、後者はパイロット校ではなかった学校である。こうした違いが生まれる要因は、学校運営が適切に行われていることによるものなのか、或いは校長の個人的なリーダーシップによるところが大きいのかについては今後さらに追跡調査及び参加型評価によって分析を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究者は、ネパール山岳・丘陵地域の被災2郡における小中学校における復旧・復興プロセスを観察・分析し、住民参加による学校運営強化への国際協力のあり方について政策的示唆を与えることを目的として研究を進めている。同研究では、①現地における復旧・復興のプロセスを定期的聞き取り調査によって記録し、学校運営の役割と実践、子どもや保護者の変化、コミュニティの変化、当事者を取り巻く構造を確認し、②当事者間のコミュニケーション方法と内容を確認の上、被災校復興に関する参加型評価を試みて脆弱な被災地域における学校運営強化による国際協力のあり方を考察する計画である。 本研究の第1年次(2016年度)は2016年8月に第1次現地調査を行って復興事業の進捗状況を確認し、続く9月には第2次現地調査でダディン郡の郡教育事務所、リソースセンター(視学官事務所)、サンプル校2校を訪問し、視学官や校長、学校運営委員会、保護者へのインタビューなどを通してデータ収集を行い、その結果に基づいて学校の復興、または復興への支援における貢献要因・阻害要因について分析を行った。 並行してネパールにおける復興の進捗や教育開発の動向に関する情報収集・分析も行っており、研究活動はほぼ計画通りに進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
ネパール地震被災校の復旧・復興事業が実際にどのように進んでいるか、そこに学校運営や住民参加がどのようにかかわっているか、についての情報収集・分析は、これまでネパール政府や他の援助機関等によって体系的には行われてこなかった。 これまでインタビューを行った学校は、筆者が中央で聞いた話に反して政府からの支援金はほとんど受け取っておらず、個人の寄付でTLCや教室復旧を行ってきたが、ミンドゥカ中学校はまだ復旧のめども立っていないことが理解された。SISMパイロット校であったカリカ小学校は、主体的に復旧計画を作り、国内外に支援を求め、学校と地域住民が協力して復旧をほぼ完了し、今後の防災計画も検討して安全な学校環境づくりを目指している。 こうした状況は、「SISM技術支援のアウトカムの現れ」と考えることもできよう。一方、校長のリーダーシップ、幹線道路へのアクセス、地域と学校との結びつき、地方教育行政の関与なども関係していると考えられる。 このため、本研究では、引き続き他の学校での進捗状況確認と、パイロット校・ノンパイロット校の校長、保護者、教員に対する質問票調査等を通してデータを収集し、地震災害と復興支援において不利益な立場となりやすい山岳・丘陵地域の学校と、それを取り巻くナショナル、リージョナル、ローカルな構造について分析をすすめ、学校運営強化のアウトカムとその確認方法について研究を進める方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
現地リサーチアシスタントの雇用について、一部、予定していた日数よりも若干少ない日数で作業が完了したケースがあったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、研究成果の精度を高めるためインタビュー件数を増やすことを計画しており、その際のリサーチアシスタント雇用に活用することを予定する。
|